【米国:NYTの風刺画】NYTこそがヘイトを煽る:トランプ、ネタニヤフ両氏を登場させた「反ユダヤ主義」の風刺画に批判続出で再度の謝罪

Post by   Eshet Chayil ーONTiB Contributor 2019/05/05 14:10

米左派系有力紙のニューヨーク・タイムズ(NYT)が掲載した、「反ユダヤ主義」の風刺画を巡る波紋が広がっています。風刺画が、強烈な反ユダヤ主義を国是にユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を進めたナチス・ドイツのプロパガンダを、彷彿させたためです。

 人類史上、最古かつ最も危険な排外思想と指摘される「反ユダヤ主義」。極右でも極左でもない、公的な記録機関としての役割すら担う信頼の高い主要紙であるNYT紙が、なぜ、ナチス・ドイツが如きのユダヤ人に対する「ヘイト(憎悪)」を煽る風刺画を、編集や校閲の段階で食い止められなかったのかーー。紙面担当デスクが迷いもなく掲載の判断を下した経緯とはーー?事後処理段階でのNYT紙の対応の愚鈍さに見られた編集や経営幹部の危機感の低さは何に由来するのかーーなど、様々な問題を呈しました。

 米国は、これまで世俗化したユダヤ人にとっても、また敬虔なユダヤ教徒にとっても比較的安全と思われていましたが、カリフォルニア州の超正統派シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)を狙った無差別な銃殺事件が4月27日に再発。昨年10月に11人の犠牲者を出したペンシルベニア州ピッツバーグのシナゴーグ襲撃事件の生々しい記憶のほか、墓荒らしなどの犯罪も顕在化しています。

 その一方、史実としてのホロコースト忘却や歴史修正主義が広がっているとの指摘も。ホロコーストの悪夢を可能にした、第二次世界大戦中の欧州大陸のような危険な状況に米国が陥っているとの警鐘が鳴り出したのです。

 同時に、物理的なサイレンも鳴り響いています。今週のイスラエルの独立戦争の戦没者慰霊日や建国記念日を前にした5月2日はナチス・ドイツの犠牲となった約600万人を追悼する「ヨム・ハショア(ホロコースト記念日)」。イスラエルでは、午前10時から2分間、サイレンが鳴り響き、高速道路を走る車両も全て止まり、歩行者も職場でも全ての人が直立して、2分間の黙とうを捧げました。

 4日から5日未明(現地時間)にかけては、避難警告のサイレンがほぼ一日中、イスラエル南部の都市やエルサレムで鳴り響きました。国際テロ組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区のガザから300発を超えるロケット砲撃が続いたため、多くの住民が防空壕で一夜を明かす事を余儀なくされました。

 果たして人類は、ホロコーストの教訓を生かせるのでしょうかーー。世界平和と人類共存の願いを込めて、まず「反ユダヤ主義」を紐解き、NYT紙が掲載した風刺画を巡る一連の動きを、まとめてみました。その後に、NYT紙のコラムニストによる同紙批評や、米ユダヤ人社会の反応などを各種媒体から抄訳でご紹介します。

【米国:NYTの風刺画】トランプ、ネタニヤフ両氏を登場させた「反ユダヤ主義」の風刺画に批判続出で再度の謝罪。NYTこそ「ヘイト(憎悪)」を煽り、米社会を分断させる張本人ーーとの社屋前の抗議デモも。編集者の無知や意識低下に警鐘

反ユダヤ主義とは

ユダヤ経典タナハ(旧約聖書)のエステル記によると、紀元前460年の古代から見られ、ユダヤ人の大量虐殺が試みられたとの記録があります。インターナショナル・ホロコースト・リメンバランス・アライアンス(IHRA)の定義は、「ユダヤ人に対する特有の偏見のこと。修辞的、または物理的な、敵意、憎悪、暴力、迫害となって現れ、ユダヤ人や非ユダヤ人の個人、または、その財産、つまりユダヤ系のコミュニティや、機関、宗教施設に攻撃の矛先が向かう」となっています。 

 英連邦のユダヤ教ラビ長、ジョナサン・サックス卿はさらに、こう説明しています。「反ユダヤ主義は細菌のように変異する。中世では宗教の違い、ナチス・ドイツ時代は人種の劣等性を理由に、ユダヤ人の迫害や絶滅作戦を正当化した。今はイスラエルの政策批判(反シオニズム)という隠れ蓑を被るが、背後にあるものは一貫して同じ。個人の居住場所や政治思想、信仰の有無とは無関係に、イスラエルという国、ひいてはユダヤ人全員の絶滅を正当化しようとする狙いである」。

 サックス卿は、「アラブ諸国が真に『2国家共存』を求めるなら、パレスチナというアラブ人国家を建国する機会は歴史上で何度もあった」とも指摘しています。1947年の国連分割案に始まり、2000年のキャンプ・デービッド、2007年のエフード・オルメルト首相の領土譲渡提案まで、全ての和平案について「ノー」と言い続けたのは、アラブ人指導者側。パレスチナ解放機構(PLO)が結成された1964年当時、東エルサレムや西岸地域(ユダ・サマリア地方)を違法に占拠していたのはヨルダンであり、アラブ人指導者側の言う領土奪回という大義は実は成り立ちません。さらに、あまり報道はされませんが、パレスチナ自治区のアッバス議長は今もイスラエル殲滅を掲げるPLOの執行委員会議長という立場にあるという側面もあります。

 これらの点を踏まえた上でサックス卿は、「現在の反シオニズムは反ユダヤ主義の新型と言える」と結論付けています


NYT紙が掲載した反ユダヤ主義の風刺画を巡る経緯

 問題となったNYT紙の風刺画は、4月25日付けの国際版オピニオン欄と、27日付けの国際版で掲載された2点。特に前者は、敬虔なユダヤ教徒が神への敬愛を示すため頭部に付ける伝統装束「キッパ」を被った盲人のトランプ米大統領が、ネタニヤフ・イスラエル首相の顔をし、首にはダビデの星をぶら下げた盲導犬に連れられて歩く姿を描いており、1940年にナチスがプロパガンダに用いた風刺画(長い黒髭をたくわえ、伝統的な黒装束を身に付けた超正統派ユダヤ人に手を引かれるウィンストン・チャーチル英首相=当時)の模倣とも受け取れる構図でした。ナチスのプロパガンダは、帝政ロシア時代に捏造されたユダヤ人による世界征服の陰謀論「シオン賢者の議定書」の内容をなぞることで、欧州全域で「反ユダヤ主義」の国民感情を増幅させ、ホロコーストの悪夢を可能にしたと悪名高い。

 NYT紙は当初から風刺画が「反ユダヤ主義」である点を認め、「編集の判断ミスだった」とオンライン版からは早々に画像を削除しました。が、当初の声明に謝罪は含まれておらず、ペンス副大統領や大統領子息のトランプ・ジュニア氏、イスラエル政府要人など国内外から、経緯の解明や、担当編集者らの処分、今後の改善策などを求める怒号の嵐に巻き込まれる格好となりました。

 このため、掲載から4日後にあたる28日、NYT紙はツイッター上で風刺画が「反ユダヤ主義」であったことを改めて認めて、謝罪。通信社が配信した反ユダヤ主義の風刺画を採用するかどうかの判断は「担当の編集者1人」に集約されていた内情を明かし、チェック機能不在という「編集体制の欠陥」だったと釈明しました。


 さらに翌日、今後の対策として、国際版も、国内版と同様に自社制作の風刺画のみを掲載する編集方針を打ち出しました。が、29日夜には著名人を含む150人が NYT社屋前で抗議のデモを展開。「反ユダヤ主義を垂れ流すNYTこそ、米国内を分断させるヘイトを煽る張本人」などとする、痛烈なNYT紙批判が放たれました。

 背景には、反ユダヤ主義によるユダヤ人を無差別に狙った犯罪の急増や墓地荒らしがあります。ユダヤ教の重要な宗教行事の一つである過越祭の最終日27日に標準を定めて、シナゴーグの礼拝者を襲った殺人容疑者が、自身のソーシャル・メディアでヒットラーを尊敬していると表明していた事実も明るみに出ています。

5月1日付けのタイムズ・オブ・イスラエル紙が報道したテル・アビブ大学の調査によると、ユダヤ人を対象にしたヘイト・クライムは、米ペンシルベニア州ピッツバーグの犠牲者が押し上げたため、前年比13%増。国際的には400件を数えたと言い、「ホロコースト」という反ユダヤ主義による悪夢の再来さえ懸念される状況にあります。


NYT紙4月28日付けオピニオン欄 】

「公的な記録の役割を果たすべき NTタイムズ紙が『反ユダヤ主義』のプロパガンダを刷って発行してしまった経緯は、反省の念を持って振り返られるべきだ」

NYT紙のコラムニスト、ブレット・スティーブンズ氏の批評(抄訳)

 「反ユダヤ主義を捕獲するのは難しいのが常である。にも関わらず、NYT紙は見本を提示した。残念なことは、教科書のように説明を付け加えるのではなく、垂れ流してしまったことだ。(中略)ナチス・ドイツのプロパガンダに利用された独週刊誌『デア・シュトゥルム 』だったら掲載したかもしれないほど、あからさまな反ユダヤ主義の風刺画だった。犬の姿のユダヤ人。小柄だが狡猾なユダヤ人が、すっかり信頼しきっているバカなアメリカ人を手引きする。嫌われ者のトランプは、キッパを被り、すっかりユダヤ化。本来なら使用人(犬)のはずが、実際は覇権者。風刺画は、実に多くの反ユダヤ主義的な要素を含む。足りない物は、ドル紙幣くらいだった」。

  「風刺画には、むろん政治的な意味が込められている。現米政権がイスラエルに盲従しているという点の批判だ。が、その見解は誤りだ。昨年トランプ政権が決断したシリア駐留米軍撤退に対する、イスラエルの動揺が一例として挙げられる。言論や風刺画を用いて、トランプ政権のイスラエル外交を正攻法で非難する方法は他にいくらでもある。問題は、この風刺画に正当性が全くないことだ」。

 「では、こんな反ユダヤ主義の風刺画が一体、NYT紙面上で何をしているのか?一部のNYT読者、あるいは、元読書にとって、その答えは火を見るより明らかであろう。つまり、NYT紙に根ざす、第二次大戦当時にまで遡る『ユダヤ人問題』。ホロコーストの実態に関わるニュースを隠蔽してきた同紙には、イスラエル関連の酷い報道偏向という形となって、今日にも脈々と続くと見ている。オピニオン欄では、この傾向が倍増する。(イスラムのアラブ諸国が56ヶ国に対し、世界でも唯一無二の)ユダヤ人国家に対する論調は常に「怒り(rage)」。一部の例外を除いて、雷電が如くの裁きをユダヤ人国家に対し下してる。こうした見解を持つ読者にとって、今回の風刺画は、NYT社全体に深く根ざす偏見が、口を滑らせて出たと映る。長らく嫌疑であったことが、ついに証明された、という見方だ」。

 「事の顛末はやや違うが、NYTを無罪放免するつもりはない。風刺画が印刷された国際版は海外向けで発行部数は少ない。少人数のスタッフしかおらず、チェック機能もメインの国内版に比べたら、ないも同然。驚くべきは、紙面が印刷される前に、風刺画を閲覧して、掲載を決めたのは、中間クラスの編集者1人だけだった事だ」。

 「(中略)NYT紙の姿勢は、深刻な過失であり、その責任を認めている。ただ、重罪ではない、というもの。風刺画の掲載が悪意のある反ユダヤ主義ではなく、信じ難い無知であった点が問題なのであろう。本来であれば、出版を考慮する段階で、マンスプレイニング(男性から女性に向けた優越的説教)から人種差別的言動(マイクロアグレッション)、トランスフォビアといった様々な偏見に対するときと同様に、警告ベルが鳴って当然の構図であるのだが」。

 「想像できるだろうか。もしも、犬がイスラエルの首相ではなく、アメリカで最もパワフルな女性と言われるナンシー・ペロシ下院議長であったら。あるいは、(マーティン・ルーサー・キング牧師と米公民権運動をともに戦った)アフリカ系のジョン・ルイス下院議員だったら。あるいは、(ムスリム女性としては初の連邦議員)イルハン・オマル下院議員だったら。NYT紙に風刺画を提供した通信社の側にしても、NYT紙国際版の編集者がいくら急いでいたにしても、それを、選択しただろうか?」。

 「答えは火を見るよりも明らかだが、次のような問題を提起する。ここまで、あからさまな反ユダヤ主義の風刺が、偏狭な報道姿勢には果敢に立ち向かう事を職務とする編集者に気付かれないまま、通り過ぎてしまったのだろうかという点だ」。

 「理由は、NYT紙にも責任がある、まるで堰を切ったかのような強烈なイスラエル批判と、反シオニズム(19世紀末からのユダヤ人国家建設の動き)の論調である。それが、あまりに常態化しているので、特有の偏狭な見解に対しても人々は鈍感になってしまった。(あってはならない)反ユダヤ主義の議論も、それがイスラエルに関する枠組みの中で語られる場合は、人種差別の問題ではなく、政治的な見解と受け入れる土壌がある。しかし、2月の『サンデー・レビュー』で取り上げたように、反シオニズムと反ユダヤ主義との境界線が、革新派は認めようとしないが、ボヤけてしまっている点は注意する必要がある」。

 「さらに、メディアの論調は、ネタニヤフを常に悪役とする。ネタニヤフを邪悪なユダヤ人指導者に仕立てた風刺画の下地であり、一介のユダヤ人を邪悪化する一歩手前である」。

 「このオピニオン欄を執筆するにあたり、私が NYT紙に対して通常以上に批判的であることを十分承知している。自紙批判を掲載するのは、NYT紙が不偏を掲げるからで賞賛されるべきだ。NYT紙のコラムニストとして過去2年間の経験から言えることだが、NYT紙全体が反ユダヤ主義とするのは中傷に当たる」。

 「しかし、風刺画の掲載は単なる『編集の判断ミス』では済まされない。NYT紙はイスラエル首相に謝罪すべきである。また、風刺画掲載に至った経緯や、長年の読者に多大な衝撃を与えたものの、驚きではなかったという事実を深刻に受け止め、熟考すべきである」。(抄訳終)


アメリカン・ジュイッシュ委員会(AJC)の4月27日のツイート @AJCGlobal

「(NYT紙の)謝罪は受け入れられない。一体、何人の編集者が目を通したのか?「(人種差別の極右勢力)白人至上主義」のウェブサイトだったら有りだったかもしれない風刺画が、NYT紙の編集規定に見合うのか?編集の意思決定プロセスについて、何を意味するのか?どうやって改善するのか?


デービット・ハリスの4月27日のツイート @David HarrisAJC

「考えれば、考えるほど愕然とする。『反ユダヤ主義』が急台頭、シナゴーグが襲撃され、ユダヤ人が殺されている。民主国家のイスラエルが邪悪な者扱いだ。お陰で、ユダヤ系の諸機関はセキュリティー強化を強いられている」。


アラン・ダーシュビッツ @AlanDersh

NYT紙が掲載した「反ユダヤ主義」の風刺画は、左派に根ざす深い問題の症状だ。左派は、イスラエルに対する批判なら、「反ユダヤ主義」という危険な排他主義を使っても良いと思っている。「反シオニズム」は「反ユダヤ主義」を合法化する隠れ蓑となってきている。


(海外ニュース翻訳情報局 えせとかいる)

※無断転載厳禁

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