【元米軍海兵隊士官・提言】アジアの軍隊を改善したければ海兵隊を送り込むことだ

皆さんは、海兵隊と聞いてどういったことを思い浮かべるでしょうか? テレビや新聞などのニュースしか見ない一般的な日本人は、おそらく、今年2018年に入ってからも起きた沖縄での海兵隊のヘリによる事故などを思い浮かべるのではないでしょうか。

ウイキペディアによると、『米軍海兵隊は、アメリカ5軍では陸軍海軍空軍に次ぐ4番目の規模であり、ヘリコプターのほか、戦闘機攻撃機による独自の航空部隊を保有し、他軍に依存せず航空支援を要する任務を実施できる。また、ホワイトハウスや在外米国大使館での警備及び儀仗任務も担当しており、大統領専用ヘリの運用も担当する』とあります。
その役割は広範で、まさに物理的な安全保障を第一線で担っていると言えます。

今回のThe National Interestに寄稿された元海兵隊士官グラント・ニューシャム氏の論説では、「災害を含むアジアの安全保障についての海兵隊の活用法」について書かれています。
現在、アジア地域の安全保障のため極限の訓練を行っている海兵隊の役割について、私たちも一度深く考えてみる必要があると思いました。
*こちらの記事は、The National Interestから紹介します。

Post 2018/03/01   17:31

The National Interest by  Grant Newsham  2018/02/25 】


アジアの海兵隊を訓練するために海兵遠征部隊を配備すれば、米国とその同盟国にとって有益となるだろう

 

米海兵隊は海兵遠征部隊(MEU)をアジアに追加配備するようだ。MEUは約2,000名から成る海兵部隊であり、米海軍の3隻の揚陸艦に航空機、武器、装備を搭載している。これらの部隊は機動力を持ち、海上、海岸、およびその中間で運用が可能であり、災害救助から戦闘に至るまでの作戦を実行できる。

これは歓迎すべき展開だ。アジアは広い。現在その地域に配属されている一つの水陸両用部隊 — 日本の第31MEU — は定員に達している。また保全要求のためということしかなく、それはおよそ半年だ。他の地域へと向かうMEUにその地域を通過させるのも有効だが十分ではない。

2011年に日本が巨大な津波と地震に襲われた時、第31MEUは残念ながらインドネシアに近い場所におり、日本まで戻るのに1週間以上かかった。現場に別の水陸両用部隊がいたなら役に立っただろう。つまり、地域をより適切にカバーできるようになる以上に、MEUがあと一つか二つあれば、米国の強い関与を明らかに示すものとなり、アジアでの米国の存在感が失われつつあるという主張は嘘だと示すことができる。また、どこにでも錨を下ろす水陸両用任務部隊は、それ自体が強い印象をもたらす。

こういったことは全部良いことなのだが、海兵隊は努力と想像力次第で、その水陸両用部隊からもっと多くの結果を引き出すことができる。

MEUの活動の中核は、韓国からインドに至るまでパートナー国の軍と二国間、あるいは多国間の総合的な訓練計画を持つことだ。全てはパートナーの能力と相互運運用性を向上させることを意図したものだ。しかしながら、MEUを際立たせることは、有名なバスケットボールの天才チーム、ハーレム・グローブトロッターズが町にやってくるのと似ている。愉快で爽快な気分にさえさせてくれるが、もっと上手なバスケットボール選手を残してくれはしない。

海兵隊の質問はこうだ。「アジアのどの国の軍となら、 — 入念に計画した「決まりきった」演習とは反対の — 現実的な、即応性のある水陸両用作を行えるのか?」

それはごく短いリストになる。米海兵隊(と米海軍)がその地域で半世紀をかけてパートナー国と水陸両用訓練を実施してきたとは言っても、だ。そのうち「リスト」には一つの名前が載るだろう。それはオーストラリアだ。けれどもそれは、オーストラリアであるが故のことだ。数年前、オーストラリア国防軍(ADF)は水陸両用部隊が必要だということに気がついた。それが本当に必要だと決定されると創設へと向かって行った。米海兵隊と海軍は協力したが、オーストラリアは米国の支援がなくとも水陸両用部隊を創設していただろう。

海兵隊は、増派するMEUが単に展示物を増やすだけの、第二のグローブトロッターズ的な分隊にならないようにすべきだ。席を埋めるだけなら課題が持ち上がることになる。地域の各軍は米国が到着するのを一年中ぼんやり待ってはいないのだ。実際数年前のことだが、訪れたMEUと訓練を行うよう指定されたことにある部隊が示した反応は、「その必要があるのか?」というものだった。

皮肉なことに、海洋、島嶼、海岸線を持つ地域に水陸両用作戦能力が不可欠であることが常識では明らかだというのに、アジア諸国の軍には適切に発達し、十分な資源を持ち、目立った欠点のない水陸両用部隊を持つところは一つもない。

アジアの水陸両用部隊が水準以下であるのは、全てが米海兵隊の失敗のせいではない。だが非の打ち所がないわけでもない。海兵隊は、パートナー国を向上させるような演習を行うことを同一視する傾向がある。実際、過去に行われた演習ではいつも、「パートナーの能力向上」や「相互運用性の向上」を目的のリストに挙げている。また演習はいつも、この点に関して成功であったと宣言される。これは根拠に乏しい主張だ。


では米海兵隊は何をすべきなのだろうか?

真に有用な水陸両用部隊を築き上げることに焦点を当てるということだ。また最も重要なのは、スコアを付けるようにするということだ。

第一に、アジアの国防軍で水陸両用作戦の進展を制限している根本問題を認識し、それに取り組むということがある。普通そのような水陸両用部隊を支持する者はいないのだから。残飯で食いつないでいる、愛されない継子のようなものだ。アジア諸国の軍では陸軍が優位に立っているところが多く、海軍と空軍を競争相手と見なしている。それぞれが自分たちの予算の取り分を要求しているのだ。海兵隊は海軍に分類されることが多く、序列は一番下だ。それぞれの部隊が自分たちの中核的で費用の掛かる利害 — 戦車、航空機、火砲、フリゲート、潜水艦、ジェット戦闘機 — に取り組んでしまうと、残ったものが水陸両用部隊に行くことになる。政治家と官僚を彼らの支援する「利害」と適合する所に投入すると、通常それらはハードウェア絡みであり、水陸両用部隊にとってはもっと悪いことになる。また水陸両用部隊は必ず「ハイブリッド」となる。つまり地上、海、そして空の能力を併せ持つ。だからそれぞれの部隊が何か — 人員、お金、権限でさえも — をあきらめなければならなくなる。部隊を別の部隊の指揮下に置くことになるかもしれないのだ。誰もそれを望んではいない。

このような状況を考慮すれば、MEUが町にやってきてショーを演じても、それだけでは水陸両用部隊の重要性に誰も納得することはない。また、海兵隊の大将が訪問してうわべだけの歓迎を受けても心変わりする人はいないのだ。

水陸両用についての考え方は、もっと適切に「納得させる」必要がある。地域諸国における実際の国防要件に基づいて説明すれば、納得せざるを得ないことがあるのだ。例えばインドネシアとタイが、統合運用の実施が可能な水陸両用部隊よりも主要な戦車を必要すると主張するのは困難だ。

しかし海兵隊は系統的なやり方で、水陸両用部隊のことをはっきりと説明してこなかった。– 「グローブトロッターズ」的な展示品が自ら説明することを期待していたのだ。それを解決するのに重要な点は、水陸両用作戦能力には — MEUと海兵隊が来ていない年間50週の間の — プロモーションが常に必要だと認識することだ。海兵隊が自由裁量でフルタイムに行動できる将校を東京に配置してから、自衛隊が水陸両用部隊を推進し始めたのは全く偶然ではない。それは日本人ですら不可能だと思っていた事だ。海兵隊は韓国にも数十年前から存在しており、大韓民国海兵隊は大抵の国よりはるかに進んでいる。また前述したように米海兵隊アドバイザーは、オーストラリアの水陸両用部隊に対する取り組みを促進し、加速させた。


恒久的な海兵隊の駐留は進展のために不可欠だ。このアプローチについては詳しく説明すべきだろう。6人の適切な海兵隊将校を、特定の「優先度の高い」アジアの国の周りに展開し、二つの使命を与える。

一つ目は水陸両用作戦についての考え方を受け入れさせることだ。そして水陸両用作戦能力を向上できる環境を作る。軍、政界、マスコミ、学術界、また役に立つ所ならどこでもその中で、水陸両用作戦能力のための支援体制を作る。そういった取り組みによって、現地の水陸両用作戦支持者のための「援護」と支援が得られるだろう。

二つ目の使命。それは現地の水陸両用部隊を向上させることだ。毎年「寄せ集め」チームを作って、グローブトロッターズの試合に出る間抜けの役を務めさせるのでは十分ではない。
前者がうまく行けば後者はもっとうまく行く。また言うまでもなく、海兵隊は将校に十分な支援を提供する必要がある。これには全て適切なタイプの海兵隊将校が必要とされる。つまり、影響力と指導力という点である種の「魔法」と能力を持ち合わせた人物だ。万人が持っているものではない。またその「魔法」は階級よりももっと重要であり、適切な大尉は不適切な大佐に勝る。将校の取り組みはパートナー国に、海兵隊 — そして米国 — との関係を保ちたいと思い続けさせるのにも役に立つ。

この計画は十分に容易なものであるはずだ。たった6人の海兵隊員だ。けれども海兵隊幹部の中には、6人の将校を割く余裕はないと主張する人も多いだろう。本当にそうだろうか?約2万人の海兵隊将校が現役の任務に就いており、予備役には4千人がいる。それで6人が見つからないと?

恒久的な駐留の計画は、水陸両用作戦能力を推進するために米海兵隊と米海軍が広範に、系統的に取り組む事の一部として見なされることが最も多い。

この点については、海兵隊の太平洋水陸両用指導者セミナー(PALS)が良いコンセプトだ。しかし、本来の計画では水陸両用作戦に関わる将校の「事務レベルの」会合と、一から作り上げることが求められていた。代わりにPALSは大将たちが同席し合う立派なカクテルパーティと似ている。頭の良い少数の少佐と大尉を問題に向かわせると、良いアイディアが生まれるのだ。しかしここで少し提案がある。

新しいMEUを、オーストラリア水陸両用部隊と関連する非公式の — 「米豪MEU」 — の基盤として使うのだ。それは完全に統合されて「様々に組み合わせる」能力を持つ。そして部隊をオーストラリアの指揮下に置くことをためらってはならない。(日本やニュージーランドのような)他の友好国の水陸両用部隊は参加したいと思うだろう。

もっと船と兵員があれば、言うまでもなく海兵隊と海軍はパートナーとの訓練をもっと行うことができる。(インド洋地域を含めて)「十分なサービスを受けていない」軍に多くの注意を払い、1対1で注意を払うべきだ。だがそれをまともな訓練にするのだ。

数年前、米海兵隊のあるパートナーから(小さな声ではあっても)一般的に出てくる不満の声は、「『VIP上陸』以外のことはできないのか?」というものだった。つまり軍の幹部、政治家、そしてマスコミを前にして行われる、入念な計画と予行演習をした上での上陸演習のことを指して言ったものだ。だから演習を有用なものにして、スコアを付けるということだ。進歩を望むのであれば海兵隊と海軍のアドバイザーたちが、パートナーたちが自分たちで事態を把握するままにするのではなく、全ての訓練イベントで必ず教育と助言を行うようにすることだ。そしてパートナーの水陸両用部隊が自分たち自身で、そして米軍があまり、あるいは全く関与せずに、やり取りできるように促す。MEUが追加されれば水陸両用作戦の専門家が数多くやって来る。その人たちをアドバイザーと教官として提示すれば良いのだ。

もう一つのアイディアは、オーストラリアと日本と協力し、インド太平洋「水陸両用」RIMPAC(環太平洋合同演習)を展開するということだ。それをオーストラリア、またはグアムの近くで行う。

グアムに関して言えば、長い間計画していた北マリアナ諸島(CNMI)の訓練区域を実現すべきだ。誰かに責任を持ってこれに当たらせる。結果が出なければ勲功章ではなく懲罰を与える。それがCNMIでの中国の転覆・妨害活動の根絶を必要とするのであれば、FBIに山ほど手錠を持たせて連れて行けば良い。


最後に、MEUを米国、日本、台湾の水陸両用部隊から成る、東アジアの人道支援・災害支援水陸両用部隊の一環として利用するというものがある。

海兵隊とMEUはずっと長い期間で唯一の町のショーとはならない。数年以内に、中国人民解放軍は東アジアとインド洋に至るまで運用できる独自のMEUを保有するだろう。それから長く待たずに二つ目の部隊ができる。中国が物事を進める速さを考えると三つ目まで行くかもしれない。

すると米国がやるべきことは何だろうか?MEUをかき集め続けるのか?それはないだろう。特に1隻10億ドルから20億ドル掛かる揚陸艦を伴っては。では中国軍が独自の「恒久的な駐留」計画を実施するとしたらどうだろうか?中国の妥当な役人がゴマすりと無制限の資金を使えば、中国MEUが多大の影響力を築き上げることができる。米海兵隊が90年以上の水陸両用作戦の経験を持ち、世界的な専門家であると言っても、だ。

海兵隊はパートナーの水陸両用部隊を向上させ、本物のつながりを作り上げ、今の影響力ゲームに勝利すべきだろう。

これは言うまでもなく、米海兵隊・米海軍共同の取り組みとなる必要がある。というのも両方なければ水陸両用部隊は有り得ないのだから。だがこの論文では海兵隊に焦点を当てている。なぜかと言うと、海兵隊が率先して行動を起こせばアジアの米海軍はいつでも協力を惜しまないと分かっているからだ。海軍の答えは決まってこうだ。「どうしてそんなに長くかかったのだ?」

この論文は一般に容認された見識と茶碗をひっくり返すものだ。それは残念なことだが、海兵隊・海軍がアジアで50年間尽力したのに、その後示すべきものがもっとあれば良いのにという思いがあるのだ。

誰もが同意するとは限らないだろう。だが海兵隊が好きな人たちや、成功するために忙しく働く人たち(そうでない人はいないだろうが)を誤解してはならない。また地域で50年経っても成長が望めない水陸両用部隊に対する言い訳として、「まだアクセスがある」という主張はあまり長く使えるものではない。米国がアジアにまだ関心があることを示す限り、「アクセス」は簡単なことだ。

MEUを一つか二つ追加するのには機が熟しており、それは歓迎すべきことだ。そして想像力を働かせてちょっとした努力をすれば — そして6人の将校も — 海兵隊が達成できることはもっと増え、戦略的な効果も得ることになるだろう。けれども、新MEUが単にグローブトロッターズの新版に過ぎないのであれば、海兵隊の司令官は自分の名前をメドウラーク・レモン — グローブトロッターズの最も有名な選手 — に変えるべきだ。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局  翻訳 :泉水 啓志      序文:MK)

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