【元米軍海兵隊士官・提言】コリアン・ラヴ・フェスト(朝鮮人たちの愛の祭典)

4月27日に行われた金正恩委員長と文在寅大統領の会談については、ノーベル平和賞に値するという楽観的な意見から、また北朝鮮に騙されるだけだという懐疑的なものまで、世界中で様々な論調が巻き起こっています。そしてそれは、来たる米朝首脳会談に向けてのトランプ大統領と金委員長の出方を予想する様々な論調にもつながっています。

グラント・ニューシャム氏はこの記事で、現時点では北朝鮮に対してはいささか懐疑的にならざるを得ないと述べています。そして、これから米朝首脳会談に向けて、トランプ大統領が取るべき態度についての提言を行っています。トランプ大統領自ら解決したいと繰り返し述べた日本人拉致問題について、日本通のニューシャム氏がまったく触れていないのは、日本人として複雑な思いはありますが、全体としては一読の価値がある提言だと思います。

この記事は、AND Magazineに掲載されましたので紹介します。
Post 2018/05/02 17:27

AND MAGAZINE by Grant Newsham  2018/05/02】

れからどうなるだろうか?

ひねくれたコリア・ウオッチャー達ですら、先週、非武装中立地帯(DMZ)で行われた首脳会談には感銘を受けざるを得なかったはずだ。過去においても、左寄りの韓国首脳と金一族との間の愛の祭典が行われたことが幾度もあったが、今回だけは違うと信じたいと思う人もいるだろう。文大統領と金(正恩)はハグまでしてみせたのだ。

これからどうなるだろう? 私にはわからない。

1994年、ジミー・カーターが我々の時代の平和を達成するために北朝鮮を自ら訪れ、平壌から戻ってきた際の在東京アメリカ大使館での会見場に、私はいた。カーター(元)大統領は金(日成)を善人と称え、平壌はいい街だと語った。そして、元大統領は豊かな実りをも予見した ―― 北に向かうバスから眺めた農場を見て、“元ピーナッツ農家として”それがわかると彼は言った。その後すぐに大飢饉が来て、百万だか二百万人の北朝鮮人が犠牲となった。

それ以降、北朝鮮との取引は全く実りのない、もしくは予測不能なものだった。アメリカとその同盟国(おもに韓国と日本)は資金、石油、食料を提供し、金政権を攻撃しないことを約束した。北朝鮮は彼らに同意するように見せかけ、贈り物は頂き、約束を反故にした。おもに韓国人に、時にはアメリカ人に対しての暴力行為を続けながら。

それから、しばらくの時を置いて、また同じことが繰り返された。

その期間ずっと、金一族は裏で物々しいミサイルと核計画を作り上げていた。自国民を食べさせられない国にしてはたいしたものだ。

ようやく、意外なアメリカ大統領がちょっと別のことを試そうとしている。北朝鮮にこれまでになかったほど圧力をかけている。トランプ氏はまた、中華人民共和国にも圧力をかけている。これまでのどの大統領も、北朝鮮問題を解決するのに必要な援助が期待できる中国を怒らせてしまうことを恐れていたというのに(そのような援助が実現したようには見えないが)。

アメリカはまた、北朝鮮とつながりのある沢山の国々に対しても圧力をかけている。そして、最も重要なのは、戦争を起こりえないことだと言う代わりに、トランプ氏はそれがまさしく“選択肢のひとつ”だと宣言したことだ。

このアプローチはもちろん、過去四半世紀のいかなるタイミングにおいても用いることができた。ジョージ・W・ブッシュ政権は2000年代中盤の短期間、それを試してみた。北朝鮮の資金を扱うマカオのバンコ・デルタ・アジアに制裁を科したのだ。この限定的な試みは効果的だった。朝鮮人たちを怯えあがらせ、そしてまた、次は自分たちの番かもしれないと、中国人をも恐れさせた。

しかし、どうやらその成功は居心地が悪かったようで、ブッシュ政権は制裁を取りやめ、北朝鮮に金を返した。すべては、北朝鮮が対話をするという約束と引き換えに。たったそれだけのために。

北朝鮮に対して両党ともがこのように無力だという状況下において、南北朝鮮会談に興味を持たないなどということが可能だろうか。そして、予定されているトランプ大統領と金氏との会談に?

見た目がすべてというわけではないが、先日の会談時、そして直前の北京訪問の際の金は魅力的だったし、元気そうに見えた。とはいえ、彼は昨年異母兄をクアラルンプールで殺害したし、北朝鮮が観光地リストに載ったわけでもない。

だが、もしかしたら金は心変わりをした? 奇妙なことが起こっている。しかし、彼はそれを証明する必要がある。さもなければ、そう簡単に金の目的が変わったと信じることはできない。

彼の目的の最重要項目は、権力に留まることだ。スイスで隠居する方法を探しているようには見えない。それどころか、彼は自分が相手をしているどの国の首脳と比べて少なくとも30歳は若く、よって自分に一番将来性があると見ていることだろう。

次に、北主導、もしくは優位に立った上での南北朝鮮統一という北朝鮮の目標はいまだ不変のようだ。それを達成するためには、アメリカ軍を追い出すことは必要条件だ。もし南北朝鮮が“何かを成し遂げるならば”、確かにアメリカ軍が駐留する必要はなくなるだろう。そうなった時点で、金氏は韓国の同胞に対して冷たい素振りを見せるかもしれない。

当然、北朝鮮が態度を改めるよう説得できると信じている韓国政府が足元を見られることを心配する観測筋もいる。自分こそが事態を収束できると韓国大統領が考えるのは、今回が初めてというわけではない。

文大統領はまた、アメリカこそが朝鮮統一を阻む“問題”だという一部の韓国社会の見方を反映し、反アメリカ主義の素質を、時には隠然と、また時には公然と表明している。

アメリカ政府は確かに、文政権から“ちょっとした手助け”を求められることを危惧している。訓練の回数を減らすとか、軍事演習を延期、または中止するとか、情報収集飛行を少な目にするとか、もしくは制裁を軽減するとか、そういったちょっとしたことだ。だが、ちょっとしたことは、積み重なっていく。

北朝鮮の意図について、観測筋は相当な議論をしている。だが、金には、懐疑論者を納得させ得る方法がひとつだけあり、それには交渉も賄賂も必要としない。北朝鮮の強制労働収容所の仕組みについて明らかにし、そしてそれを閉鎖しさえすればよいのだ。もし北朝鮮がそうしないのであれば、彼らが心変わりをして、純真な韓国人たちを騙しているのではないなどとは、とても思えない。これが、数年前のカンボジアのクメール・ルージュとの交渉と酷似していると考えるのは間違いではない。理論的には、邪悪な政権も自発的に更生する可能性はあるが、普通それは無理筋というものだ。

北朝鮮に現在囚われている3名のアメリカ人を解放することは? それはあまり意味がない。北朝鮮はいつでもまた数名を捕らえることができるから。

様々な取引が北朝鮮とは合意されてきた ―― そして、そのすべてが壊れてしまった。だが、今回の中華人民共和国との取引は何かが違うと見る(または、見たいと思う)人もいる。

中国は自国の国境で問題を起こしたくはないし、アメリカからの更なる圧力も受けたくはない。輝かしく見える中国経済も、ちょっと中を覗いてみれば、音を立てて消えていっている最中だ。北朝鮮がソウルに一度でも砲撃すれば、それは中国に、そしてその他の国々に、終わりの見えない経済的問題を引き起こす。朝鮮半島でもっと大きな衝突が起これば、中国経済にとっては大打撃になるだろう。

中華人民共和国は自らが招いた問題を片付けようとしている。彼らは数十年にわたり、北朝鮮に資金を提供し、擁護してきた。彼らはまさか戦いを厭わないアメリカ大統領が現れるとは予想していなかった。そして、中国の北朝鮮に対する援助は錯覚だということに、彼がとうとう気づいてしまうことも。彼はまた、中国市場にアクセスしたいがために、およそ想像し得るあらゆる課題について、譲歩するという考えに悩まされることもない。

皮肉なことに、この怪物(北朝鮮)を作り出してしまった今、統一朝鮮について中華人民共和国は相反する感情を持っているに違いない。何世紀にもわたって鬱積した中国に対する憤りは、そのとき表面化するかもしれない。しかも、核兵器を伴って。

長年にわたって米朝関係を扱ってきたアメリカの専門家たちがトランプ氏に対して山ほどの忠告をしていることは、驚くべきことではない。数学の単位を落とした生徒が個別指導を行うようなものだ。実際には、これまでのトランプ政権の成功要因のいくつかは、そういった人々を無視し、かわりに朝鮮を(そして人間というものを)よく知っていて、(機会さえ訪れれば)どうすればよいかをわかっている人たちに耳を傾けてきたことにある。

ですから、大統領閣下、北朝鮮と中華人民共和国に圧力をかけ続けてください。何年も前に約束したことを果たすだけの中国に報酬を与える必要などありません。アメリカ合衆国とその同盟国を守るために必要ないかなることでもすると明確にしてください。そのうえで、金氏が何と言うか、見てみようではないですか。

正しいふるまい方を北朝鮮に対してどのように説得するか頭を抱えるのでなく、自分たちが良い方向に変わっていることを文明社会にどのように証明するかを北朝鮮に悩ませる方がよっぽどよい。

悲しい結果に終わるだけかもしれない。だが、誰にわかるというのか。もしかしたら金は強制労働収容所を閉鎖して我々を驚かせるかもしれない。もしかしたら彼はオットー・ワームビアの両親を呼んで謝罪するかもしれない。

そうすれば、今回こそは違うと、私も確信するだろう。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 加茂 史康)

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