【米国:PIIE論文】中国発ソーシャルメディアの世界展開は、西側諸国に新たなリスクをもたらす

中国のファーウェイ事件をはじめ情報漏洩の話題は尽きません。
中国発のソーシャル・メディアは大きな危険性を伴っているという論文です。日本でも中国発TiKToKが若者を中心に大流行しています。

この論文では、スパイや個人情報流出についても書かれていますが、それ以上に中国国内で多くの国外発のソーシャルメディアが禁止されているにも関わらず、中国発のソーシャル・メディアは中国国外ではほとんど禁止されていないという根本的な問題がはらむ今後の危険について書かれています。
この記事は、国際経済についての分析、政策提言を行うシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所にご協力いただき翻訳発信いたします。ピーターソン国際経済研究所さんと執筆者のクラウディア・ビアンコッティさんに心より感謝いたします。
ぜひ、お読みください。

Post by Mariko Kabashima   2019/01/19 21:57

PETERSON INSTITUTE FOR INTERNATIONAL ECONOMICS  China Economic Watch By Claudia Biancotti  2019/01/11】

中国のIT企業はここ数年、さまざまなソーシャルメディアを展開してきた。中には、国内では非常に人気があるが、海外ユーザーにはあまり人気ないものもある。2018年、インスタグラムに似た中国のアプリが初めて欧米市場に進出したことで、中国国外での認知度も変化した。そのアプリは、米軍の間でも流行っている。

 

しかし、中国のソーシャルメディアの海外への浸透は、大きな安全保障上の問題を提起している。ソーシャルアプリはユーザーの多くのデータを収集する。この情報が中国に送られた場合、政府は容易にアクセスでき、例えば、中国政府の監視ソフトウェアが西側の人間の顔をはっきりと認識したり、西側の軍事活動に関する情報を抽出したりすることに活用できる。しかし、米国・EU当局はこれらのリスクに十分な注意を払っていない。


 

TiKToKの台頭

 

TikTokは短いビデオを共有するためのアプリである。ほとんどの場合、録音された音楽に口を合わせて自分を撮影したり、有名人を真似たダンスなどの動きをアップしたりするために使用されている。このアプリの中心となる利用者層は10代や若年層であり、彼らは好意的なコメントを得たり、有名になりたいがためにビデオをシェアする。このアプリの所有者である中国のユニコーン企業バイトダンスは、時に世界で最も価値のあるスタートアップ企業と呼ばれ、人気のニュースアプリ「今日頭条」でも知られている。

 

市場調査会社のセンサータワーによると、2018年の10月までに、TikTokはアメリカのiPhoneによるソーシャルメディアプラットフォームの月間ダウンロードの約30%を占め、FacebookのInstagramとGoogleのYouTubeを上回った。年末にはGoogleのモバイルOS Android向けアプリの世界ランキングで6位 [参照1] となり、Netflixやアマゾンショッピングを抜いた。

バイトダンスは、中国におけるTikTokの月間アクティブユーザー数は、11月に4億人であると報じられた。同社は海外ユーザー数を公表していないが、2億人程度と推定される。米国では、このアプリは2017年に初めて全世界で公開されて以来、8000万回ダウンロードされている [参照2]。少なくとも、業界のリーダーたちが10億人のインストールベースを持っていることを考えれば、この数字は絶対的に大きいものではない。[参照3] 中国のアプリで前例のないのは国境を越えたリーチである。

 

TikTokには、いくつかの異なるユーザーのサブコミュニティがある。米国では、若い軍人が最も活発に活動している。彼らは自分たちのビデオをアップロードし、しばしばフィットネスの練習をし、制服を着て、IDタグがはっきり見えるようにしている。撮影は軍事施設の中で行われ、時には戦場のように見える場所で行われる。TikTokは大半のソーシャルアプリと同様、位置情報データを収集する。[参照4]


中国、プライバシー、そしてセキュリティ

 

大西洋の両側で、Facebookはユーザーのセキュリティとプライバシーを守れなかったことで、ますます圧力を受けている。その圧力への対応をめぐる論争は、2018年の株価の22%下落に影響した。一中国企業がこの分野でよりうまくやれるのだろうか? そして外国人ユーザーはその行動を効果的に監視することができるだろうか? 少なくとも今のままの世界では、 どちらもノーだ。

 

中国では、IDが盗まれる事態が頻繁に起きているため、オンラインのプライバシーに対する懸念が高まっている。個人情報保護のための厳格な新基準が2018年5月に施行された。しかし、懸念が高まっても、不正利用に対する十分な保証は得られない。新しい基準がどのように実施されるかについては極めて不透明である。さらに重要なのは、たとえ民間企業がユーザーデータを使って何ができるかについて、より多くの制限が課されたとしても、政府のアクセスが制限されると考える理由はないということだ。

 

中国当局は、反対意見を抑圧するための別の呼び名である「安定維持」を含む、広く定義された公共の安全とセキュリティの根拠に基づいて、民間セクターからの情報を要求する余地が多いにある。疑わしい動きによるデータアクセスが複数  報告されており、中には米国企業の中国事業にまで関わっているものさえある。

 

米国欧州連合のTikTokのプライバシーポリシー [参照5] には、データが中国に転送される可能性があると述べている。ユーザーの同意があれば、この転送は合法である。バイトダンスはプライバシーとセキュリティへの取り組みを強調している。同社は、ユーザーの一番の利益を本心から優先しているかもしれないが、いったん情報が万里の長城を越えてしまうと、それがどうなるかはわからない。


危険な注意の欠如

 

欧米当局が中国へのデータ転送の影響に対処するための措置を全く講じなかったと言うのは不公平であろう。2018年初め、対米外国投資委員会(CFIUS)は、アリババによる送金サービスMoneyGramの買収を、データセキュリティの問題で拒否した。同年後半、米国の外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)により、CFIUSは次の事項を審査することが明示的に義務付けられ、「・・・取引によって、・・・米国民の個人情報・・・・または米国民のその他の機密データが、国の安全を脅かす形でその情報を利用する可能性のある外国政府・・・によるアクセスにさらされる可能性の範囲」としている。2018年に発効したEU一般データ保護規則(GDPR)では、個人データの国際的な流れとして、一定のプライバシー保護措置の存在を条件としている。

 

こうした規定にもかかわらず、主にエンターテインメントを目的としたソーシャルアプリは、量子コンピューターのように国家安全保障との関連性において、より明確なイノベーションと同レベルの注目を集めていない。TikTokが世間の批判を浴びたのは、中国とのつながりではなく、子どもの保護基準があいまいだったことだった。GDPRは欧州連合におけるTikTokの普及を止めなかった。同様に、中国のクンルングループ(Kunlun Group・崑崙)がゲイの出会い系アプリGrindrを買収したことに関して、情報専門家から寄せられた脅迫や影響力の懸念は無視された。

 

これらのアプリのリーチを無視することは、致命的なミスにつながる可能性がある。ソーシャルプラットフォームの浸透性と、それらが収集するユーザー情報の深さは、スパイ活動と世論操作の両面で非常に強力なツールになる。TikTok自体はティーンエイジャー以外にはリーチを広げられないかもしれないが、より幅広いアピールを持つ中国のアプリが米国とEU市場に登場するのは時間の問題だ。もしこのようなアプリが広く採用されれば、中国のセキュリティサービスに潜在的に与えられている欧米へのアクセスという点でファーウェイ規模の問題となる可能性がある。

 

この脅威は深刻だが、それだけではない。ソーシャルメディア市場は、勝者独り占めを引き起こすネットワーク効果を示している。中国が自国の国際化を推進しながら、欧米のプラットフォームを禁止し続ければ、世界で優位に立つチャンスがある。ソーシャルメディアは一般的に、人工知能(AI)モデルの開発を含め、個人データが複数の製品やサービスを動かすより広いエコシステムの一部であるため、この優位性は他の分野での優位性につながる可能性がある。TikTokのような一見問題のなさそうなアプリはAI競争の中のトロイの木馬になるかもしれない―中国は国内でライバルを潰しながら、それらを世界中で作動させることは許されるべきではない。


(参照)
1. Google Playストアの無料Androidアプリランキング。2018年12月31日時点。チャートは毎日変化している。

2.  米国の月間アクティブユーザー数に関するデータはない。アプリをダウンロードしても絶対に開かない人もいれば、ごくたまにしか使わない人もいるし、別のスマートフォンに何度もダウンロードする人もいるので、ダウンロード数のデータは月間アクティブユーザー数を多めにカウントしている。

3.2018年にFacebookは、禁止されている中国を除く世界中で23億人の月間アクティブユーザーを誇っていた。中国のマーケットリーダーであるWeChatには10億人以上のユーザーがいた。

4. 米国で有効なプライバシーポリシー (2019年1月現在) は次のとおり。
「モバイルデバイスでプラットフォームを使用する場合、SIMカードに基づいた位置情報を含む、お客様の位置情報を処理します。IPアドレスまたはモバイルデバイスの場所の設定がモバイルデバイスで有効になっている場合は、GPS(GPS)を使用します。・・・位置情報を弊社と共有しない場合は、モバイルデバイスのGPS機能をオフにすることができます。」

5. このブログ記事が公開された時点で、バイトダンスのプライバシーポリシーは、これらのアーカイブされたウェブページに示されているように、ユーザーに中国へのデータ転送を通知していた。その後バイトダンスは方針を変更した。


執筆者 :クラウディア・ビアンコッティ(Claudia Biancotti)

2018年10月にピーターソン研究所に客員研究員となる。イタリア銀行の国際関係経済部のシニアエコノミスト。現在はテクノロジー企業の規制に焦点を当て、競争政策が人工知能の開発に与える影響に重点を置いている。
最近では、サイバーセキュリティの経済学や中央銀行におけるサイバーセキュリティガバナンスに取り組んでいる。


ピーターソン国際経済研究所デジタル大辞泉から
国際経済問題について分析・政策提言を行う米国のシンクタンク。所在地はワシントン。無党派の非営利団体で、活動資金は団体・企業・個人からの寄付や、出版事業、基金の運用益などで調達する。1981年に国際経済研究所として設立。2006年に現名称に変更。創設者のピーター=ピーターソンはニクソン政権の商務長官、リーマンブラザースCEO、ニューヨーク連邦準備銀行理事長などを歴任。PIIE(Peterson Institute for International Economics)。


(海外ニュース翻訳情報局 序文&翻訳 樺島万里子)

 

※ 無断転載厳禁

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