【元米軍海兵隊士官提言・必読】日本の新型空母は波風を立てるに至らず

自衛隊最大の護衛艦「いずも」を空母化する決定に関しては、既に多方面で論議を呼んでいるようです。決定に至るまでの「空母でなく多用途運用護衛艦」だという、本質と関係のない言葉の遊びのような議論に長い時間をかけていたところが今の日本の弱点を象徴しているように思えます。

日本の軍事力強化を喜ばない一部の国・グループからは当然のように批判の声が上がっていますが、当サイトで何度も論文を翻訳掲載している元アメリカ海軍士官グラント・ニューシャム氏は、それとは別の視点から、批判的な意見を述べています。

こちらの記事は、アジアタイムズに寄せられた論文の翻訳です。
Post by Yasushi Asaoka, 2018/12/22  

Asia Times by GRANT NEWSHAM 2018/12/13】

空母の配備は、首尾一貫した持続可能な戦略というよりは、むしろ大人の遊び道具の選択、そしてアメリカ政府をなだめるための努力のように見える。

長きにわたって予期されていたものが、ついに来た。平和主義国といわれる日本が、航空母艦を運用する。これは公式発表だ。

だが、驚くべき要因の先をよく見てみると、日本の防衛構想は、見た目ほど印象的でないことが多い。

日本政府によって発表されたばかりの防衛計画大綱は、ヘリコプター搭載護衛艦として知られる2万トン級「いずも」を、十数機ほどのF-35ステルス戦闘機を搭載できる航空母艦に改造することを標榜している。

その発表は当然、注目を浴びた。太平洋戦争初期に軍国主義の日本が誇らしげに運用していたような、もしくはもっと限定的なものであったとしても、21世紀の日本が航空母艦を所有するという考えは、ほんの数年前まではタブー視されていたからだ。

そしてもちろん、これによって様々な利益が期待できる。


日本が力をつける

固定翼戦闘機、特にF-35を移動式プラットフォームから発進させられるようになることは、北東アジア海域においては役に立つ能力だ。なぜなら空母は、その本来の機動性ゆえに、地上の航空基地よりも攻撃を受け難いからだ。

さらに、航空母艦の運用は海上自衛隊の技術を向上させるだけでなく、日本の各自衛隊を協力させることも期待できるため、自衛隊の欠点を克服することにつながる。

手一杯の米海軍も、日本の空母が提供する援助を歓迎することだろう。

そしてこれは、一種の抑止力となる。その運用能力以上に、日本が国防恐怖症を克服し、自国の防衛に踏み出すということを、たった一隻の空母が証明することになる。しかしながら、この情報はワシントンでは快く受け止められたとしても、いくつかの周辺諸国においてはその限りではないだろう。

航空母艦の能力を最大限に活用し、戦闘こそが自衛隊の本来のミッションであるということに国民を慣れさせることは、安倍晋三首相念願の(しかし長引いている)憲法改正への動きを容易くするかもしれない。


異議なし

予想される異論に関しては、なんとでもなる。

まず、日本国憲法が航空母艦の所有を禁じているという議論があるが、それは本筋とは関係のない話だ。憲法第九条に一言一句従えば、日本は警察力を持つことすらできない。しかし、日本は常に必要に応じて憲法を解釈し、無視できない規模の軍隊を作ってきた。たとえその軍隊が「自衛隊」と呼ばれていようと。

「平和」憲法はむしろ、日本政府がアメリカの要求を飲みたくない場合の言い訳として使われている。

次に、反対者は航空母艦が「攻撃的兵器」であり、日本政府の方針により禁じられているはずだと言う。しかし、兵器というものは本質的には攻撃的でも防御的でもない。それらがどう使われるかによるだけだ。

日本の潜水艦はいとも簡単に攻撃的になって、アジア大陸国家の船を沈めることだってできる。そして、日本のF-15戦闘機が攻撃に出るのを妨げるものはなにもない。だが、日本は過去60年間にわたってそれらの「攻撃的」な兵器を所有してきたにも関わらず、自らに制限をかけてきた。

軍事作戦が、たとえば日本がアジア大陸国家を侵略・占領しようという、日本人の誰もそんなことを話しも想像もしていないような、「戦略的攻撃」という状況で行われるかどうかを考慮することの方がより有益だ。もしくは、日本の領土領海を攻撃から守るというような「戦略的防御」か。反撃などの攻撃的作戦は、「戦略的防御」として行われるのであれば、正当で常識的なものだ。

航空母艦が戦力を誇示するための兵器だという考えもおそらくあるだろう。だが「いずも」と、その姉妹船である「かが」は、たとえF-35を搭載したとしても、大した戦力は誇示できない。なんといってもたった2隻しかないのだから。

一方で、中国は近い将来、5~6隻のより巨大な空母を建造する計画を発表した。専門家はすでに、日本が実質よりも見かけを重視する兆候を感じ取っている。


米産業界に落ちる多額の金

元アメリカ太平洋艦隊情報局長官である退役指揮官ジェイムズ・ファネルは「空母を作ることに関してのタブーがなくなりさえすれば、日本の国民と政府はたった2隻の“見世物の船”以上のものが必要になると気付くことだろう」と言及している。

「最初の一歩としては目覚ましいものの、2隻のいずも級空母の改造は「3隻で一組」の原理から、限定的な効果しか望めないだろう」とファネルは語る。「この原理のもと、1隻の航空母艦が整備を受けている間、もう1隻が訓練にあたっていても、最後の1隻が実際の作戦を実行できる」

日本政府が今以上の空母を計画しているという形跡はない。

日本に長く在住し、官界とも近しいある海軍航空士はもっと正直にこう語った「その空母のエレベーターがF-35を扱えるからといって、彼らが飛行作戦を行えるとは限らないし、ろくな戦闘活動もできないだろう。アメリカにとってみれば、まったく下らない話だ」

それでも、既に発注済みの42機に加えて更に100機ものF-35ステルス機を購入するという日本の高官のコメントには、彼は上機嫌だ。「少なくとも、これはいつも日本が言う“深刻な財政難により…(以下、何であれ、やらないことの言い訳が続く)”からの変化ではある」

日本の退役上級自衛官も同意する。日本政府がほのめかした88億ドルに上るF-35の調達は「来たる貿易交渉に備えてアメリカ政府をなだめ、圧力を弱める」という動機が、少なくとも部分的には影響しているだろうと示唆する。

彼はこうも付け加える。安倍政権の一部にとっては、「いずも」の空母化計画は日本の防衛を強化するために熟考されたというよりは、もっとたくさんのF-35を買うことを正当化するための策だと。

それだけでなく、その戦略的重点や、自衛隊の隊組織と要求される戦闘能力、そして日米同盟の必要条件などについての限定的な見解から、彼は今回の防衛計画大綱については批判的だ。彼はそれを単なる「アメリカ製の高価な兵器のお買い物リスト」だと言う。

さらに、国民も一部の自衛官も「空母を効果的に運用するために何が必要とされるかを真剣に考えてこなかった」とも彼は述べた。


持続可能な戦略の欠如

日本は、グローバルホーク、巡航ミサイル、イージスアショア、F-35といった高価な「特効薬」を首尾一貫した戦略なしに買う傾向があり、通信機器や十分な量の弾薬など、より魅力的でない装備を軽視していると、長きにわたって専門家は指摘してきた。

「自衛隊はそのようなおもちゃで遊びにふけっている余裕はない」と、その元自衛官は警告する。

その代わりに、実戦能力の確保や米軍との同盟を容易にするために必要なもの全て(共同作戦や、物流と持続可能性の強化を含む)を総括的に見直すことが求められていると、彼は主張する。

「あのようなおもちゃ(いずも)は、有害であり、戦艦大和や武蔵ほどにも有益でない」と、彼は厳しい調子で告げる。歴史上どの国によって作られたものよりも強大なその2隻の戦艦は、実際の海戦ではほとんど役に立たず、アメリカの空母から飛び立った戦闘機の格好の餌食となった。

そして、少なくともあと5年は「いずも」は空母として運用されないため、日本政府はその他の緊急な必需品について検討するだろう。

まずは、今すでに自衛隊にあるものを活用すべきだ。特に、協同能力を高めること。自衛隊は、初歩的な協同・合同作戦にすら苦労している。もし空母が、日本南方の離島の防御・奪回に従事する陸上自衛隊に新設された水陸機動団を援護するために運用されるならば、共通運用性は不可欠だ。

そしておそらく、購入するF-35の数を減らし、自衛隊の訓練にもっとお金を使うことだ。

そのような努力抜きでは、即席の空母は大した違いを生み出しはしない。果たして日本の防衛予算がそれだけのF-35を購入できるほどに増額されるのか、それともただでさえ少ない現状の予算からさらに搾り取られるのか、専門家は憂慮している。

「(中国の)人民解放軍の各軍が協同・統合することによって誇示する能力は、日本にとって既に存在する脅威だ」とファネルは言う。「自衛隊が生き残るためには、(2隻のいずも級以上の)空母をベースにした強固な軍隊を持ち、その機動範囲を広げ、日本の領土・領海を無事に守る成算を上げる必要がある」

現状、これは起こりそうにない。

というわけで、「いずも」構想は限定的な進歩にすぎない。それは結局、真の脅威に立ち向かうために構成・装備され、米軍と完璧に統合できる能力のある軍隊を求める少数の自衛官や民間人に対する、「形式上の」防衛を好む大勢の官僚、政治家、ビジネスマン、そして一握りの自衛隊高官の勝利をまた見せられているだけだ。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 序文&翻訳: 浅岡 寧  編集:樺島万里子)

※ 無断転載禁止

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