【米国:必読論文】アメリカの高等教育における中国の政治的な影響と干渉の活動に関する予備研究

ウィルソンセンターの中国当局による教育機関への工作についてのショッキングな報告書については、アゴラや正論など他のメディアでも古森義久氏の寄稿文でご覧になった方もいらっしゃると思います。
当サイトのメンバーが、このウィルソンセンターの「米国の高等教育への中国の政治的な影響と干渉の活動の研究」と題する143ページにわたる報告書を分析しました。この内容について、是非みなさんに読んでいただきたい内容です。
143ページにわたる報告書全文を紹介できませんので、サマリーを翻訳紹介いたします。
日本人も知っておいて、備え対処した方がいいのではないでしょうか。
Post by Mariko Kabashima,  Translated by Hiroshi Izumi  2018/11/23 21:30

Wilson center report 2018/09/06】

アナスタシャ・ロイドダムジャノビク著

エグゼクティブ・サマリー

中国共産党は、国内社会のあらゆる局面に対して支配を強化する中、ますます党のイメージの中に世界を形作ろうとしている。

「ボイス・オブ・チャイナ」を放送する巨大マルチメディア基盤、一帯一路のような開発計画、また利益の上がる中国市場に外国企業がアクセスすることを制限する権限は、北京が自由に使用可能な道具のほんの一握りに過ぎない。

中華人民共和国の当局者は、自分たちの地球規模の構想を公共財として提示しているが、多くのアメリカ人は中国の動きを、アメリカの価値と利益と対極にある世界を生み出そうと意図する、同等の競争相手のそれと見なしている。

アメリカ国内の人々と組織に対する中国の政治的影響力についての懸念は、ここ数カ月で融合し、それをテーマとした議会公聴会が多数開かれる結果を引き起こしている。

アメリカの教育部門、議員、またジャーナリストは、国家ぐるみの孔子学院に注目を集中させている。
孔子学院は中国共産党のプロパガンダを推進し、中国に批判的な学生活動を検閲しているとされているからだ。

しかしながら、学術界と一般の間での議論では、中国の外交官と、アメリカの大学に学生として入学している中国国民のコミュニティの活動から生じる可能性のある課題が、ほとんど無視されてきた。

こうした懸念は誇張される場合があり、誤評価されたり、悪くすると人種による選別を受けたりする可能性をはらんでいるとしても、この予備研究でそれらが正当であることが分かった。

過去20年にわたって、アメリカ駐在の中国外交官は、アメリカの大学の教員、学生、管理者、また職員を以下の方法で侵害してきた。


 大学に招かれた講演者とイベントについて苦情を訴える

 中国当局が取り扱いに注意すべきと見なす内容(以後、「取り扱いに注意を要する内容」)が研究に含まれる教員に圧力をかけるか、あるいは勧誘を申し出る

 アメリカの大学の中国のパートナー団体との共同構想に対して報復する中国外交官は以下の方法で、アメリカの大学で人々の個人の安全性も侵害してきた。

 情報収集と一致するやり方で教員と職員の情報を調査する

 脅迫的な会話の方法を用いるここ数年、少数の中国の学生が、アメリカの大学の教員、学生、管理者、また職員の学問の自由を次の方法で侵害してきた。

 大学内から取り扱いに注意を要する内容を含む研究、宣伝、装飾の資料を除去するよう要求する

 教員に、証拠に基づくというよりも政治的な根拠に基づいて、取り扱いに注意を要する内容が含まれる言葉遣いや教材を変更するよう要求する

 中国に対する批判的な討論に従事する大学コミュニティの他メンバーの話を遮り、野次で妨害する

 取り扱いに注意を要する内容が含まれる学術活動を中止するように大学に圧力をかける中国の学生はアメリカの大学で、以下の方法で教員、職員、学生を憂慮させたり、威圧したりするような行動を取ることもあった

 取り扱いに注意を要する内容が含まれる人々と活動を学内で監視する

 不審なやり方で教員の情報を調査する

 大学コミュニティの他のメンバーに対する脅迫、虐待的行為、迷惑行為に従事する


学生の活動はおそらく個々人の国家主義的な信条に由来しており、それは彼らが、熱狂的愛国主義や保身のため、あるいは西洋の学術界の慣行に精通していないという理由から、大学の規範と食い違った形でさらけだしているものだ。

また、党でのキャリアを思い描く中国の学生は、海外で中国に対する批判と戦うことによって、将来の職業上の利益が得られるとも考えているのかもしれない。

この論文に記録されている中国の学生は、現在アメリカに留学している35万人以上の中国国民の内、わずかな割合を代表するものだろう。

中国の学生の全員が、または大部分が中国共産党の工作員だとする意見は、あきれるほど大雑把で、危険なほどに不正確なものだ。

報復措置として中国の学生を一括りに避難すべきではないし、こうした学生が中国系の教職員と共に、中国外交官と国家主義的な同輩によって行われている、影響と干渉の活動の犠牲者である場合も多いという事実を見落とすべきではない。

中国の学生はアメリカの経済、科学的イノベーション、また文化に多大な貢献を果たしている。また、アメリカの高等教育の中で人々と過程に影響を与えようとしている国は、中国だけではない。

中国の外交官と少数の学生が、大学コミュニティのメンバーの学問の自由と個人の安全性を侵害してきた数多くの事例を文書化することで、この論文ではいくつかの洞察を提示しており、中でも以下の内容がある


 中国の外交官は、アメリカの学内で取り扱いに注意を要する内容が含まれる学術活動の中止を監視し、影響を与え、そう仕向けるための様々な活動に従事している。

 中国の学生は均一なグループではない。彼らは、大学コミュニティのメンバーの学問の自由と個人の安全性を侵害しようという政治的動機に基づく試みの、加害者と被害者のどちらともなり得る。

 中国の学生は、取り扱いに注意を要する内容が含まれる学術活動に反対するために、一般的に進歩主義の学生運動を連想させる言葉を用いてきた。

 中国研究に携わる教員や大学管理者の間では、中国の影響と干渉の活動にさらされることとそれに対する懸念に関して大きな相違がある。

中国の影響と干渉の活動は、中国国民の在学者数の多い、資金繰りに苦労している公立大学だけで行われてきたのではなく、裕福なアイビーリーグ系や小規模な一般教養教育の機関でも行われている。


この論文で基本的に推奨することは、政府と教育研究機関が共同で、アメリカの大学での中国による影響と干渉の活動を調査するために、超党派の研究チームを集めることだ。その一方で、アメリカの大学は、学内の環境が中国の影響と干渉の活動を受け入れにくくするための慣行を身に着けるべきであり、それには以下のようなものがある


 中国と関わることから生じる課題に対する集団的認識を醸成するために、大学間で経験を共有する

 連邦政府の法執行機関と協力し中国の外交圧力と報復の実例を報告する

 学問の自由に対する大学の伝統的な誓約を再確認し、学内の言論を制限しようという試みや、その発言や活動が誰かを怒らせるかどうかに基づいた活動に抵抗する

 学年度の初めに、アメリカの大学での適切な行動について、各国の学生に向けた全学でのオリエンテーションを行う

 新しい教員は、中国の学生が学習機会の中に党の見解を明確に示した場合には少し方向を転換し、どの国の学生でも他の学生の話を遮ったりヤジを飛ばしたりする場合には仲裁する訓練を行う

 教員が厄介な出来事を上位の管理者に報告するための経路

 キャンパスポリスが、破壊的な学生と未登録の訪問者に対処するために、より十分な装備を整えるようにするための教育


議員は次の方法で、中国の影響と干渉の活動の一部に対応することを検討できる


 中国の影響及び干渉事件を経験した大学が報告するためのシステムを作る

 ダライ・ラマのような人物を招待する大学に圧力を加えたり、取り扱いに注意を要する研究テーマを追求する教員を脅迫したりする中国の外交官に、ペルソナ・ノン・グラータ*を宣言する

 中国の相手と話し合う場合、教育研究活動における影響と干渉の問題を議題にする

 アメリカの機関が学内で学問の自由を守ることに対して、中国がそれを罰した場合、中国に費用を課す

 中国学生学者連合会の活動を規制することを見越して、ある団体が外国代理人登録法を免除された、「学校に関わる」または「大学教育に関わる」存在だと見なされる場合の状況を明確にする

(訳注 ペルソナ・ノン・グラータ*・・・接受国からの要求に基づき、その国に駐在する外交使節団から離任する義務を負った外交官を指す外交用語)


アメリカの高等教育における、中国の影響と干渉の活動によってもたらされる課題は実在する。

不完全な情報、党派的な政策、また大学が公然と中国の影響と干渉の活動について討議するのを阻む個人と組織の利益のしがらみが、効果的な解決策の調査を困難にするだろう。

それでも、ある教員、管理者、また職員が中国の外交官と学生からの圧力に抵抗したという事例も記録されていることから、楽観もできる。

大学と議員が中国関連の学術活動に従事する教員、学生などを支援するための新たな方法を見つけ出すことができれば、アメリカの高等教育の整合性を確保できる。中国の影響と干渉に対抗して教育研究機関と政府が一層の協力をすることで、学問の自由は弱められるのではなく、強化されるだろう。

アメリカは、国の最大の力の1つである高等教育システムを守るべきだ。


執筆者 :
アナスタシャ・ロイドダムジャノビクは、「研究者のためのウッドロー・ウィルソン国際センター」のシュワルツマン準会員(2017-2018)である。彼女は中国の影響力、中露関係と東アジアの安全保障の原動力などに関心を持つ。アナスタシャは北京の清華大学で、シュワルツマン・スカラーズ・プログラムの初代奨学生として1年間過ごした。オックスフォード大学で国際関係論の修士を、プリンストン大学で政治学の学士を受けた。


(海外ニュース翻訳情報局 : 序文:樺島万里子  翻訳、分析: 泉水啓志)

※ 無断転載禁止

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