【米国:ホワイトハウス】経済諮問委員会報告:社会主義の機会費用

アメリカで、それも特に若い世代の間で社会主義への傾倒が顕著になってきているという記事を、当サイトにおいても何度か取り上げています。10月23日付のホワイトハウスの広報ページに掲載されたこちらの記事は、社会主義が如何にアメリカ経済を低迷させ得るかという事例を、経済諮問委員会の報告書からの抜粋という形で説明しています。

新旧含めた具体的な他国の名前を“失敗例”として挙げているのは、日本の感覚からするとやり過ぎのようにも思えますが、消費税の引き上げや軽減税率制度を来年に控え、日本政府にももっとこういった具体的な国民への説明に努めて頂きたいものです。

Post by Yasushi Asaoka 2018/10/27 23:29

White House 2018/10/23】

STATEMENTS & RELEASES

本日、経済諮問委員会から、社会主義が生活水準や連邦政府予算への影響を含むマクロ経済に及ぼす機会費用の概要についての報告書が提出されました。以下がその概要で、報告書全文はこちらで読むことができます。

カール・マルクス誕生200周年にあたり、アメリカ国内の政治論議に社会主義が再び姿を現しています。自称社会主義者による詳細な政策提言が、議会や多くの有権者の間で支持を集め始めているようです。

もちろん、一般的な有権者が “社会主義”について具体的に何を思い浮かべているかはわかりません。しかし、経済学者は社会主義の定義については概ね一致した意見を持っており、それにかかる費用と便益についての研究にかなりの時間と資金を費やしています。様々な文献を基にしたこの報告書は、社会主義の歴史的な展望と目的、経済的な特徴、経済動向に及ぼす影響、そして合衆国における昨今の政策提言との関係について論じています。

歴史上の社会主義政策の支持者と、現代の合衆国におけるそれらの人々との間には、共通した展望と目的があります。彼らは一様に、自由経済体制における所得の分配は、不当な“搾取”の結果であって、それは国家の管理のもとに調整されるべきものだと見做しています。彼らが提案する解決案には、単一支払者制度(国民皆保険)、(“納税者の収入に合わせた”)高税率、そして国の財貨・サービスを(“国民の貧困度合いに合わせて”)無料で配布する公共政策などが含まれます。歴史上の支持者と現代の人々の考えが異なるのは、現代の民主的社会主義者は国家の無慈悲を非難し、個人が多くの産業において独自の生産方法を有することを認めているというところです。

社会主義政策を評価するにあたり、それらの政策は生産や革新にとって不可欠なインセンティブを欠いており、また財貨やサービスを“無料”で提供することによって、費用や消費者需要といった経済にとって重要な情報を見えなくしてしまうということを認識することが重要です。これについては、英国のマーガレット・サッチャー元首相が1976年に、「社会主義政府は(中略)いつも他人のお金を使い果たしている」、よって「人々に自らのお金を自分の好きなように使える選択肢を与える」ことのできる政府こそが、繁栄への道だと語っています。

果たして社会主義が目指す明るい未来を実現できるか否かは、経験上の問題です。最も極端な社会主義の事例を子細に見てみることから分析を始めてみましょう。それらは、毛沢東時代の中国、キューバ、そしてソビエト連邦といった、典型的な農業経済国です。それらの非民主的な政府は、農作物をよりふんだんに作るという名目で、農業の管理を政府の支配下に置きました。その結果、はるかに少ない農作物の収穫と、数千万人の餓死者を出しました。民主主義の保護のもとに高度な社会主義政策が平和裏に行われた場合においても、巨大な政府組織と集中管理された資金による根本的なインセンティブの歪みや情報の問題は、現在のベネズエラがそうであるように、工業国においても同様に見られます。社会主義政権下での失敗した農業経済からの教訓は他の近代化した工業国の政府へと引き継がれています。それは、彼らの生産性は高くなるのでなく、より低くなるということです。

ここにあげた国々は、社会主義の低い生産性の結果を示すより一般的な例ですが、そのような結果は、より広範囲な国家間の経済的自由権への影響においても同様に確認できます。それは、財務指標、公共支出、国営企業の広がり、経済的規制やその他の指標によって、実質国内総生産(GDP)の形で定量化されます。この文献は、広範囲な経済的自由権とより良好な経済動向との間には強い相関関係があることを示しています。もし合衆国がベネズエラのような高度な社会主義政策を適用したならば、長期的に少なくとも40パーセント、もしくは一人平均年間2万4千ドルに当たる実質GDPの下落を見ることになると、この文献は示唆しています。

より妥当な社会主義の成功例として取り上げられることのある北欧諸国ですが、彼らの経験もまた、社会主義は生活水準を引き下げるという結論に寄与しています。多くの点で、現在の北欧諸国の政策は、経済学者たちが頭に思い描く社会主義とはかなり異なっています。たとえば、彼らはヘルスケアを“無料”では提供していません。北欧諸国のヘルスケアの財源は、相当な費用分担によって賄われています。今日における北欧諸国の限界労働所得税率は合衆国のそれより若干高い程度であり、彼らの税制は全般的に合衆国のものと比較しても、驚くほど保守的なものです。また、北欧諸国は資本所得税が低く、製品市場への規制も合衆国ほど行われていません。しかし、北欧諸国は労働市場に対して、より多くの規制と課税を行っています。よって、もし合衆国が現在の北欧諸国と同様の政策を取り入れたとすると、平均的な所得の家庭は手取りに対して年間2千から5千ドル多く課税されることになります。北欧諸国の生活水準は合衆国のそれと比較して少なくとも15パーセント下回ります。

おそらくアメリカの社会主義者はこの国の政策を1970年代の北欧諸国の、経済学者による従来の社会主義の定義に沿った政策に近づけることを思い描いていることでしょう。我々の予測によれば、もし合衆国がそうした政策を採用したとすると、長期的に見て実質GDPは少なくとも19パーセント、国民一人平均で年間約1万1千ドルの下落を見ることになるでしょう。

北欧や欧州版の医療社会化制度は、昨今の“メディケア・フォー・オール(全ての国民に医療保険を)”提案を通じて(合衆国経済の六分の一以上に相当する)ヘルスケア分野への支払いを国有化するという考えに近く、それを提唱している現代のアメリカの社会主義者たちの目には理想的なものと映っています。この政策は、医師や病院といった供給者側への支払い金額を一括して設定する独占的な政府医療保険会社を通じて、ヘルスケアを“無料”で(費用分担なしに)提供しようというものです。もしも追加借り入れや増税なしに、現在の政府予算でこの政策を賄おうとするならば、全予算の半分以上が必要となります。または、これを増税によって賄おうとするならば、生産要素を供給する動機を高関税が妨げることにより、2022年にはGDPが9パーセント、一人当たりにすると7千ドルもの下落を見ることになります。たとえ“メディケア・フォー・オール”が医療保険に入ることのできる人口を多少は増やすことになったとしても、単一支払者制度(国民皆保険)による生産性と有効性は、短期的にも長期的にも国民の寿命と健康に悪影響があることを証明しています。

(海外ニュース翻訳情報局 序文、翻訳: 浅岡寧)
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