【元米軍海兵隊士官・提言】北朝鮮はこの条件下においてのみ、核を保有し続けることができる

いささか不明瞭な共同声明で幕を閉じた米朝首脳会談から2か月が過ぎ、マスコミの報道によると、北朝鮮は会談以前に近い強気な発言を繰り返すようになってきたようです。一方で、トランプ大統領のツイートを見る限りでは、(相変わらずの社交辞令的なメッセージを抜きにすると)遅々として進まない北朝鮮の非核化に対するあからさまな攻撃は影を潜めています。6月16日に当サイトに投稿したAND Magazineへの寄稿から約2か月、現時点における北朝鮮側の着地点を、グラント・ニューシャム氏の視点から予測した論文が発表されました。

こちらは、8月14日にナショナル・インタレスト誌に掲載された論文を翻訳したものです。

Post by S.K 2018/08/17  23:17

The National Interest  by Grant Newsham 2018/08/14 】

もし北朝鮮が結果を出さなければ、もしくは、誠実さの兆しを見せなければ、戦争が現実味を増すことになる

6月にシンガポールでドナルド・トランプ大統領が金正恩に会う前は、楽観的な見方をしていた人達ですら、北朝鮮の意図については懐疑的だった。それから6週間が経ち、もはや楽観主義者を探すことさえ困難だ。特に、直近のポンペオ国務長官の平壌での会議の後では。彼はその会談を生産的だったと述べたが、一方で北朝鮮側は、アメリカの“ギャングのような”態度を非難した。

過去の経験に照らし合わせると、通常なら今はアメリカ、韓国、日本が平壌政府に対して“ご褒美”のメニューを用意する段階だ。だがトランプ政権は罠に対して用心深く、その類の賄賂には興味がない。

だから今はおそらく、北朝鮮が誠意を見せる番だ。特に、トランプは既に米韓合同軍事演習を延期し、そしてまた大統領の常として、引き続き金正恩のことを素晴らしい男だと評しているだけに。

だが、果たして金正恩がアメリカとの取引につながるようなその種の改革に本心から興味があるのかどうかには、議論の余地がある。金正恩のことを、鄧小平やミハイル・ゴルバチョフと同列の人物だと評する人もいる。それら二人の主導者たちは、それぞれの国において、おもに経済開放に尽力した。一人は成功し、もう一人はそうではなかったが。

だが鄧小平もゴルバチョフも、一族による支配を継続するためにはいかなる無慈悲なことでもできた支配者一族の出身というわけではなかった。それに、彼らの国のほとんどの国民たちは彼らのことを崇拝してはいなかった。

金正恩はスイスで育ち、NBAやデニス・ロッドマンのファンだから、彼らとは違うのだという声もある。だから、彼は改革を望んでいるのだ、と。だが、かつてのKGB議長ユーリ・アンドロポフがソ連の最高指導者になったとき、スコッチウィスキーとジャズ好きな彼は隠れた改革者だろうと言われた。しかし実際には、そうではなかった。

金正恩は鄧小平が行ったような経済改革を求めているのかもしれないが、それを達成するために必要なことを果たして彼が実行したいかどうかは疑わしい。それをすることは彼の個人的な支配を弱めることになり、それは彼にとっては死活問題だ。

また、文化大革命の最中に中国全土を破壊した党内のすさまじい内紛を、無傷ではなかったにせよ生き延びた鄧小平は、単なる青二才ではなかった。中華人民共和国が行き詰っており、さらに悪い方向に進んでいたことが彼にははっきりとわかっていた。金正恩の経験はそれとは違う。彼は、自国の大部分の国民とは違い、甘やかされて充分に栄養の行き届いた人生を送ってきており、鄧小平が(さらにはミハイル・ゴルバチョフが)自国に対して感じていたのと同様な緊急性に気づいてもいないだろう。

では、今回はいつもとは違うということを証明するために、北朝鮮はどう出るだろうか。

こんなにも長い間、これほど酷いふるまいをしてきた国にとっては、それは難問だ。それが何であれ、披露する誠意は仰天するほどのものでなければならない。

たとえば、平壌政府は米ドルと煙草の偽造を止め、不法なドラッグの製造と販売を停止することができる。または、政敵を公衆の面前で(ついでにプライベートな場所でも)殺さないようにすること。もしくは、サイバー上での盗みや強奪行為を止めさせることかもしれない。

だが、それらもおかしな話だ。北朝鮮は、そもそもやってはいけない事(そして、やっていないと強弁していること)を止める必要があるのだから。

もちろん、裏表がないことを見せるために、北朝鮮はここに列挙したようなことと、さらには日本人拉致や2010年に韓国の軍艦「天安」を沈めたことやオットー・ワームビアの死を“白状する”ことはできる。だが、何についても白状することは平壌政府の得意とするところではない。もし彼らがそうしたとしても、疑い深い人達は何かに気づくだろう。

では、ミサイルをいくつか破壊するのは? 北朝鮮がすべての(もしくは、ほとんどの)ミサイルを破壊し、そしてどうにかしてそれを証明しない限りは、多くの懐疑論者たちを納得させられないだろう。北朝鮮が他に何を持っているのか、または地下に隠してあるのかなどを知る術はない。そしていずれにせよ、政府はいつでも新しいミサイルを建造することはできる。

核実験場の機能を停止するか、破壊するのは? 平壌政府は5月にそれをやってみたが、ほとんど誰の関心も引かなかった。何が破壊されたのか、たぶん他に同じような実験場が複数あるのか、誰にも定かではない。そしていずれにせよ、そのような実験場を再建するのは難しいことではない。

より最近になって、北朝鮮はロケット発射施設を解体したようだ。興味をそそる話ではあるが、これもまた再建可能だし、平壌政府が単に不要になった施設を放棄したにすぎないという説もある。

では、残った米軍の行方不明者を引き渡すのは? アメリカ人にはたいした恩恵はないだろう。文明人であれば既に、そういった人達は見返りなしに引き渡しているだろう。それに、北朝鮮は行方不明者を隔離しており、アメリカの譲歩を引き出そうとするときに少人数ずつ引き渡しているという疑惑もある。

強制労働収容所を閉鎖して政治犯を釈放するのはどうだろう? これは一見よい案のようだが、政府はそれらの人々を別の場所に収監することもできるし、いずれにせよこの世界で最も抑圧的な国の中では“釈放された者たち”を鉄の監視下に置いておくことだろう。

もしかしたら韓国が彼らを匿うことができるかも? 南北朝鮮の兄弟愛をしつこく売り込み、半島を分断したのはアメリカだと言わんばかりの文政権と彼のアドバイザーたちにしては 価値のある努力だろう。とは言うものの、韓国がその手に出るかどうかは疑わしい。

いずれにせよ、北朝鮮が強制労働収容所の収監者たちを、彼らが政府を“中傷”したり、さらには転覆させようとする可能性がある場所に(それが北朝鮮国内であっても)解放することを想像することは難しい。

しかしここに一つ、実行可能で、実証もほぼ可能で、懐疑主義者たちですら不承不承ながら合意する案がある。北朝鮮は大砲とミサイルの照準からソウルを外せばよい。

ソウルを狙える何千もの大砲とミサイル(その多くは強化された場所に隠されている)は実質的には核兵器とみなせる。北朝鮮の現状のミサイル搭載核兵器よりもより簡単に、より正確に引き渡すことのできる“核”兵器だ(訳注:実際には北朝鮮は現状では核搭載ミサイルの開発を完成させたかどうかは定かではなく、ここでは使用済み核燃料を搭載したいわゆるダーティーボムを指すと思われる)。

だから、もし金政権がソウルをそれらの兵器の照準から外せば、 それは実質的に核兵器を放棄したことになる。それこそが、アメリカとその同盟国による北朝鮮への圧力を無力化する、長年にわたって持っていた切り札だ。

ソウルを照準から外すことは、北朝鮮にとっては純粋な不利益となる。だがまさに、平壌政府にとって戦略的な譲歩を作り出すことになる。

北朝鮮が大砲やミサイルを撤去したことを証明することは可能だと思われる。なぜなら、非武装地帯とその周辺地域は、何十年にもわたって地球上で最も厳しく見張られ、監視されている場所だからだ。

もちろん、もし今後の交渉が平壌政府の思うように進まない場合、大砲やミサイルを元の場所に戻すことも可能だ。だが、そのような行為は明らかな段階的拡大、もしくは好戦的な意図とみなされるだろう。要は、兵器類が元の位置に戻されるときは、それらは停止させられるため(別の言い方をすれば、破壊されるため)となるだろう。

願わくは、金正恩はトランプ大統領が以前の大統領たちとは違い、長期間にわたって騙され続けられるようなことはないと気付いていてもらいたい。そして彼が、以前の大統領たちのように“ずるずると決断を引き延ばす”ようなことをしないということも。

もし北朝鮮が結果を出さなければ、もしくは、誠実さの兆しを見せなければ、戦争が現実味を増すことになる。だから、平壌政府は急いで、仰天するような行動を取った方がいい。そして、北京政府がそれを後押しすることを願う。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 加茂史康 )

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