【元米軍海兵隊士官・提言】米中貿易戦争

 トランプ政権の輸入関税については、様々な議論があり、米国の保守派の間でも評価が分かれているようです。現状を変えることで、様々なマイナスが生み出されることもあるでしょうが、まず背景を正しく認識して分析することが重要かもしれません。AND Magazineに掲載された、グラント・ニューシャム大佐の論説を紹介します。

Post 2018/04/19 15:37

AND Magazine by Grant Newsham 】

すべてはルールの問題

米国と中国は相互に関税の応酬を繰り広げており、「貿易戦争」の開始段階にあると言えるかもしれない。しかし、鉄鋼、豚肉、大豆をめぐる騒動ばかりみていると、主要な問題を容易に見失うことになる。

それは何だろうか?

著名なエコノミストのマーヴィン・フェルドシュタイン氏は、事態を正確にこう説明していたが、故意に皮肉を込めていたわけではなかった。「必要なことは、中国が2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟した時に受け入れたルールに従うよう、態度を変えることだ」では、ここではっきりさせておこう。約20年経っても、中国は繰り返し従うと約束したルールに未だに従おうとしていない。

これは実のところ自由貿易の話ではない。 ルールに従うという話だ。それが国際商取引において重要であるのは、野球の場合と同じだ。それでも、クイーンズの元不動産開発者(訳注・トランプのこと)が大統領に就任するまでは、米国側ではそのことについて多くを行った人はいなかった。

これまでの政権は、トラブルを避けるため、中国と強く対峙することを望まなかった。米国のビジネスは、中国のあらゆる人に何かを売るという魅惑によって身動きが取れなくなっていた。そして、一杯のポタージュのために自らの生得権を売ることも厭わないようなCEOが多かった。JWマリオットのような企業でさえも最近ひれ伏し、中国共産党をなだめるため、ネブラスカ州で時給14ドルの従業員をつるし上げた。

「中国マネー」の匂いを嗅ぎつけたウォールストリートと法律事務所は、死肉を嗅ぎつけたハイエナのようだ。 最後にはウォルマート効果というものがある。おそらく平均的なアメリカ人家庭は、安価な中国製の製品を購入することによって、年間800〜2000ドルを節約していると推定される。相当なものだが、米国の産業を空洞化することと引換えの取引である。

しかし、中国によって一定期間利益を上げることのできる企業もある一方で、中国での条件が自分たちにとって不利になっていると認識している米国企業は、ますます増えている。

中国の習近平氏は、おそらく一層の問題を見越してのことだろうが、関税を追加で引き下げ、中国の金融市場を外国企業にさらに開放していくと約束していた。ここ数十年中国が約束を守っていないと考えれば、疑いを抱くだろうか?法廷弁護士であれば、「あれが嘘だったのか、それとも今の話が嘘なのか?」と尋ねたいのを必死でこらえることだろう。

習氏が中国市場を変えたいと思っているなどとは、全く誰も思わないだろう。騙されやすい外国人に「今回は違う」と思いこませるだけのことをしていると思うのが関の山だ。たとえ彼が誠実であったとしても、不可能なことだろう。

中国共産党は中国を、財産権と法の支配があり、公平に契約を履行することのできる国へと変える必要があるだろう。また。中国のビジネスモデルの一部となっていると思われる、技術の強制移転と奪取があると共に、政府は、中国企業が外国企業を壊滅に追いやるのを手助けするために何でも行う。結局のところ、中国が近い将来十分な変革を遂げると想像するのは困難なことだ。

中国は貿易戦争を生き残れるだろうか?トランプ政権が実際に最後までやり抜くつもりであるなら、最近課した関税は、「注意を引きつける物」として見るのが最適だ。しかし、特定の中国製品に対する単純な報復アプローチは、うまく行きそうにない。中国は不快なことがたくさんあっても吸収できる。中国と中国人は(その中の5千万人を除いてだが)、最終的に毛沢東政権を生き抜いた。そして、ウォールストリートと米国のチャタリング・クラス(訳注:高い教育を受けた中流階級で、社会の出来事や状況について意見を持ち話したがる人)は、すでに不満を漏らし始めている。関税と中国の対抗関税に直接影響を受ける、農業従事者と石油業者でさえもだ。

だが、中国が崩壊しそうにもない一方で、いうまでもなく、6.5パーセントという中国の成長率を信じる者はいない。毎年魔法のように政府の目標を達成しているというのだから。また、不良債権が大きな問題として残っている。中国が、人類の歴史で誰もやったことのない経済運営の方法を発見したのであれば別だが。

その上、この数十年で資金が中国から流出している。これは「先物市場」に似ていて、体制からほとんどの利益を得ている人々が、将来に対する懸念を表しているのだ。彼らは、(合法であろうとそうでないとしても)可能な限りあらゆる手段を駆使して、国から富を得ようとし、血縁者に「グリーン・カード」を持たせ、バンクーバー、マンハッタン、シドニーといった抜け穴に入り込む。中国は資本規制を引き締めており、為替管理を行っているが、政府がそのように振舞うのは何かを恐れているからだ。それにもかかわらず、資金は国外への流出を続けている。

次に、一帯一路の計画は机上では素晴らしいものだ。しかし、これらの計画の中で本当に利益を生むものがどれだけあるだろうか?中国政府が、外国(特に西側の国)と外国の投資家を引き付けようと努める様子は死に物狂いに見える。投資アドバイザーが「見逃せない」投資だと言って無理に勧めるのに似ている。しかし、自分自身のお金は余り危険に晒したくないのだ。外国の投資と技術が中国経済に浸透するのを妨げれば(米国の圧力でそうなるかもしれないが)、中南海で暴露された(訳注:法輪功に対する弾圧とそれに対する抗議活動があったとされている)以上の問題をもたらす可能性があるだろう。

トランプ政権が真剣であるかは、どうすれば分かるだろうか?

何よりも、米国政府が米国への中国の投資に互恵的な基準を設けているか確認してみることだ。つまり、米国企業が中国で同じことを行えない限りは禁止するということだ。そして、中国の投資を(また中国に対する米国の投資とビジネスも)さらに吟味し制限するのに、「安全保障」の権限をフルに活用するのであれば、正しい方向に向かっている。

政権が引き金を引く前に、同盟国を取りまとめていればと人々は願っている。よくあることだが、米国の友好国は、米国が先行して大変な仕事を引き受けることを望んで、ひょっとしたら尻込みしたかもしれない。

重要なことは、貿易についてまともに受け止めてもらうには、米国政府は他のところにも圧力をかける必要があるということだ。例えば、米国の港に入る中国の船舶と商品を30日間検査することは、安全性と偽造の懸念によるものだ。そういった入念な検査は、オピオイドの捜索にも必要である。オピオイドの大部分は中国製であり、それらが米国での蔓延をもたらし、ベトナム戦争が最高潮に達した頃以上の数の米国人を死に至らしめている。中国はその流れを止めることはできないと主張しているので、米国人なら手伝ってやれるということだ。

また、米国政府は最終的に米国の安全保障法を執行しても良いだろう。経営情報の実態を明かそうとしない中国企業や、偽造品を販売する中国企業を排除することに着手するのだ。ウォールストリートと法律事務所は愚痴をこぼすだろうが、今に始まったことではない。米国政府が中国のサイバー攻撃とサイバー盗難に真剣に取り組めば、それも有効だ。露呈させ、面目をつぶし、制裁を掛ける。加害者に手が届かないのであれば、それを許していることに究極的に責任を持つ人々に制裁を掛けるのだ。

WTOのルールに違反して、米国企業から知的財産を盗難し、技術の強制移転を行うことには積極的に制裁を掛けるべきだ。大統領にはそれを行うための権限が十分にある。

中国で西側の記者が受けているのと同じ扱いを、米国にいる中国の記者にも適用すべきだ。 それで中国の当局者が訪米して法律を犯し、米国在住の中国人を脅し、誘拐するなら逮捕すべきだ。国務省が失神しそうになったとしても。有名な中国当局者の米国の資産と銀行口座を黙って差し押さえ、血縁者のグリーン・カードを停止すればいい。

中国が貿易に関する約束を守ると納得できるまでのことだが、過去の行動が指針となるのであれば、それはないだろう。また米国政府が前述のことを行うまでは、中国が納得させることはないだろう。ある正当な理由から、米国人は何もしないと信じているのだ。

調整の努力

中国が貿易のルールを無視することに対する米国の取り組みは、注意散漫であることが余りにも多かった。ある観測筋はこうコメントした。「共通の戦略と理解の下で米国政府の取り組みを単純に調整するのであれば、大きな成果を上げるだろう。それどころか、米国政府内では、同じ政府機関ではないにせよ、正反対の取り組みをしている。国務省は午前中に中国に対する政策を変更したかと思えば、午後にはその科学者たちに補助金とビザを与えている」

米軍でさえ分裂している。南シナ海に空母を送っているが、中国が米海軍のドローンを盗んで米国の航空機に嫌がらせを行い、米国とその友好国にぞっとするような脅しをかけているのに、米国は中国をRIMPAC(環太平洋合同演習)の演習に招待しているのだ。中国は、驚くほどのことではないが、貿易圧力に関して米国が持ちこたえることはないと考えている。米国政府は必ず屈すると見なしているのだ。

トランプ政権はどう出るだろうか?私には分からない。中国のような敵対国に対して、チャンスはあまり多くないし、十年前に取り組んでいればもっと良かったのだ。 米国側(民間と政府の両方)は、中国が弱く貧しかった時に、見下すような態度を取ることが余りにも多すぎた。はるかに強国になり景気も良くなった今となっては、見下しから臆病な態度へと容易に変わるのももっともなことだ。

一括起訴ではないのだが、中国に対する意見は、中国からお金を稼げるかどうか(あるいは稼げることを期待するか、ビザやセミナーの招待を得られるかということでさえも)と相互に関係していることが多い。また、我々を現在の混乱へと引き込んだ妥協的な中国の政策の中で投資してから、評価が危うい状況になっている場合もある。

人の良い中国によって、また中国をWTOに入れてればその行動を無視しても、徐々にルールに従って自由化するだろうというのが狙いだった。この45年をかけた実験は、ずっと前に欠陥のある仮設だと分かった。しかし、中国について自分たちが間違っていたと公然と認めた人がどれだけいただろうか?マイケル・ピルズベリーのことが思い浮かぶ。彼をおいて他に思い出すのは難しい。

しかし、貿易は国家間の政治の違いとは無関係だと主張されることが多い。中国経済についての分析や解釈を読んでみると良い。もっと広範な関係についてでも。するとそこでは、合意に基づく政府の欠如や、臓器狩りについて、また反対者を狩り、誘拐し、殺し、ウィグル人を「教育」収容所に送り、クリスチャンを迫害し、国際法を無視するジョージ・オーウェル式の監視国家のことに触れることは滅多にない。実際、このようなことを見過ごすことは、微妙なニュアンスを持った、政治家的なことと見なされることが多い。 原則というものはやはり重要だと私は言いたい。少なくとも、南アフリカのアパルトヘイト体制が切羽詰まった状態になった時はそうだった。しかもそれは、多くの点で現在の中国政権よりももっと自由だったのだ。

米国のビジネスマンと学者に中国についての考えを改めさせるために、トランプ政権はサリバン原則(訳注:アパルトヘイトに対抗するための規範)や南アフリカに対して行われた制裁の中国版を作れば良いかもしれない。

不幸にも文明世界にこれほど歓迎された国は今までなかった。しかし、中国を「変える」最大のチャンスとなるのは、中国が変わるまでWTO加盟を保留することだった。ルールを決めて中国が調整するように要求するということであって、その逆ではない。

中国はトランプ氏の動きに激怒することが予測される。環球時報のある記事では最近、中国は韓国動乱でそうしたように貿易戦争を行うと脅していた。ある観測筋が次のようにコメントしたようなことであれば良いのだが。「今回だけは環球時報の論説に同意する。中国は次のように、韓国動乱を戦ったように貿易戦争を行うべきだ。

— 「勃発した」だけだと言って、責任を認めることを拒否する。
— 産業規模で打ちのめされる。 — 開始した場所にずっと留まる。ただし、西側が新たに押し戻すことを決断した状態で — 「立ち上がった」ことで勝利を宣言する。(どういう意味か説明する必要はない)
— 全世界が、どのような病気が中国を永遠に苦しめているのかと疑問を持つまで、自己卑下を深めるための力を増強させるものとして、大躍進と文化革命を用いる。 — 次の30年を極貧からの回復に費やす。
— 歴史を改ざんして、混乱を招いた国家の指導者を祭り上げる 

このようなことは全て気が滅入ることだが、関税、制裁、そして主張の先を思い描くことだ。その主張とは、米国の専門家の一部やIMFのラガルド氏でさえ言っているが、中国のモデルが今後の趨勢となるのだというものだ。逆に中国の「先物市場」を思い描くことだ。それによって成功した中国人は、お金と自分自身を米国や似たような場所に投入したいと思っている。

米国人で可能な人が全て、お金を中国に移し、北京のマンションに必要以上のお金を払って、居住許可を手に入れようとする時、私は不安を感じるだろう。その時までトランプ氏が、長い間うまく機能していたルールを守るよう求め続けることを人々は期待している。そして中国は、そのルールに従っていたなら、そこからさらに利益を得ていたことだろう。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳 泉水 啓志)

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