【元米軍海兵隊士官・意見】気候変動は“敵”になるだろう(軍事的な敵ではないが)

元米軍海兵隊士官グラント・ニューシャム氏による、「気候変動」とアメリカが取るべき行動についてのレポートです。もちろん、彼のことですから、綺麗ごとの環境保護の話などではなく、実際に環境破壊を繰り返している「国」について意見を述べています。こちらは、アジアタイムズからの記事です。

Post 2018/01/19  1:00

Asia Times By GRANT NEWSHAM  2018/01/16】

 元米軍太平洋司令官、サミュエル・ロックリア提督が2013年に、アジア太平洋地域における最大の問題点は、中華人民共和国でも北朝鮮でもなく、「気候変動」だと言い切った。

また別の海軍兵、引退した四つ星の提督ジェイムズ・スタヴリディスは、先日発表された国家安全保障戦略に記された国々と比較して、トランプ政権が気候変動に正当な順位をつけていないと決め付けた。

もちろん、気候は変動している。私が幼かった頃、ヴァージニアにはよく雪が降ったものだが、最近ではまったくだ。気候変動の原因については、きちんとした調査の上で然るべき対策を講じられるべきだ。両極端な意見の持ち主(現代のテクノロジーを全否定する人たち、もしくはまったく何もしない人たち)は無視して構わない。「極端な意見の持ち主」というのは、何かにつけてそういうものだ。

さて、提督たちの言っていることは正しいかもしれないし、間違っているかもしれない。だが、いったいペンタゴン(米国国防総省)がそれに関して何をするべきだというのか? これは軍が絡む問題ではない。第一海兵師団は、天候をつかさどる神をなだめるために、いけにえの羊を殺したり処女を火山の噴火口に投げ込んだりすればよいのか?

前海軍長官レイ・マビュースが米軍に対して使用を強制した法外な価格のバイオ燃料ですら、天候については殆ど何の効果もなかった。そのような追加資金は、米軍パイロットの訓練や米軍機の整備に使った方がいくらかましだった。

気候変動によって予見される問題は、将来の、ときにはずっと遠い将来のものだと思われている。ペンタゴンには取り組むべき直近の問題が山ほどある。たとえば、東アジア(と、もっとできる限りの遠方まで)を支配しようと必死な中国共産党や、キム氏の核兵器やミサイルなどだ。アジア以外では、イラン人たちは今のところ他所で話題になっている核兵器は作っていない。では、プーチンの領土略奪やその他の問題は? どれをとっても、気候変動のせいなどではない。

南シナ海の中国の浚渫船

 

それらはすべて、米軍が装備し、対応すべきもの、集中しなければならないものだ。ロックリア提督とスタヴリディス提督が話しているものは概ね、彼らが意図的であろうとなかろうと、衝突につながる現代の環境の略奪行為についてだ。

まず手始めに、スタヴリディス提督は彼の憤りを中国の、アジアもしくはそれ以遠での「武力的な」環境破壊に対して向けるべきだ。南シナ海での中国の人工島の建設を見てみるがいい。その戦略的な水域における支配(そして汚染)を推し進める軍事拠点を建設するために、彼らは壊れやすく繊細な珊瑚礁や漁場を破壊してしまった。そしてこれは、他国が南シナ海で漁業を営むことや、自国の海洋資源に近づくことをも妨げている。このことは、アメリカの同盟国の力を弱め、100年間に1/4インチ(6ミリ)ほどの海面上昇の問題などよりも、戦争の脅威を煽っている。

このことに触れている人は稀だ。グリーンピースやNGOは口を閉ざしている。そしてこれは、南シナ海だけの問題ではない。

メコン川での中国のダム建設は下流のすべての人々を脅かす。そしてそれは、下流のすべての国々を支配する武器として使われかねないし、実際に使われるだろう。ブラマプトラ川上流に作られた中国のダムもまた、下流の国々、特にインドを卒倒させるだろう、中国がそう意図した通りに。ダム建設がそれほど環境に優しくはないということは言うまでもない。

一方、中国の漁船は世界中の海を根こそぎさらっている。各国政府を敵に回し、地元の漁師を廃業に追い込み、そして、海洋資源を枯渇させている。もしアメリカ海軍がなにか役に立つことをしたいのであれば、不法漁業を取り締まり、悪質な漁船を沈めればよい。そのような漁船は我々の友好国を痛めつけ、国際ルールを犯している。そして、かろうじて持ちこたえている環境を破壊している(不法な廃棄漁船問題について、インドネシア人に聞いてみればよい)。

絶滅危惧種? センザンコウやサイやその他の陸上と海の希少生物にはさよならを言うしかない。中国が最近発効した禁止令が中国人の象牙需要を止めるなどとは、誰も信じてはいない。インドネシアやその他の東南アジアの森林は、中国の需要に応じて不法に伐採されている。環境を破壊し、地元社会を堕落させ、伐採由縁のヘイズ(訳注:インドネシアの野焼きに端を発する東南アジアでの煙害)による健康被害問題の増加をを引き起こしながら。

2016年12月8日に、ニューヨークのトランプタワーに到着した際に、ドナルド・トランプの事務官マデリーン・ウェスターハウトに付き添われるジェイムズ・スタヴリディス元提督

これらを証拠に、スタヴリディス提督はトランプ政権よりも中国に対して文句を言えばよい。できない理由があるだろうか? 数年前にシンガポール高官が、どうしてシンガポールは中国の行為に対して、アメリカの同じような行為に対するように批判しないのかという率直な意見を覚えているだろう。「だって、中国人は私たちの言うことなど聞かないから」と。

彼らは言うことは聞かないだろう、ただ、彼らは我々が言っていることは聞こえる。そして、もし我々が行動に移せば、彼らは注意を払わざるを得ない。そんなことが滅多に起こらないからという理由だけではなく。

結局、気候変動のせいで考えを変えるような人はあまりいない。だが、米軍が主要な役割を負うべきだという考え方は行きすぎだ。あるUCLAの科学博士が的確にこう述べている;

「気候変動は敵だ。だが、軍事的な敵ではない。もしそうであるなら、もし我々が気候変動を打ち負かすことができたなら、もう軍事的な心配は何もいらないはずだ。だが、それは現実離れした考えだ。軍は、もっと短期的な天候変化に気を遣うべきだ、なぜなら、それは彼らの作戦に影響するからね(たとえば、気圧配置や、水の供給や、平均海面などだ)。だが、軍事問題につながるような気候変動はまず、政治問題としてはっきりと表れるはずだ。それこそが政府の懸念事項だ」
気候学などにいたずらに手を出さず、戦争に勝つことに専念する提督や将軍がアメリカにもっといればいいのにと願うばかりだ。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。

 

(海外ニュース翻訳情報局 浅岡 寧)

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