【中国:動向分析】中国の強力な成長は、トランプの撤退で大きくなる

今回のフランスのマクロン大統領の訪中の記事をみていると、仏大統領の訪中というよりマクロン氏の中国詣でという印象がぬぐえません。中国とフランスがアフリカでのパートナーシップを復活し、中国がエアバスを184機と原子力を発注するという事業調印が行われ、フランスがビジネス的に上手くやったというより、中国の力を見せつけられたように見えます。昨年は、中国経済は崩壊するという意見が日本国内でよくみられましたが、実際のところどうなのでしょう。今回は、タイム誌の特派員だったのイシャーン・タルール氏が分析したオピニオンをワシントンポストから紹介します。タルール氏の父親は、インドの国連事務次長を務め、ダボス会議で”将来のグローバル・リーダー”の一人に指名されています。

Post 2018/01/13   9:00

The Washington Post by Ishaan Tharoo    2018/01/11】

今週のフランスのエマニュエル・マクロン大統領の初めての中国の訪問地は、奇妙なことに北京ではなく、西安だった。西安市は、兵馬俑と皇帝の墓のために建てられた町であり、シルクロードの歴史的玄関口としての役割を果たしている。
フランスの大統領は故意に中国の過去の感覚に迎合していた。

マクロンは中国のメディアに対し、次のように述べた
「フランスと中国は、非常に異なる文化を持つ2カ国だが、どちらも普遍的な使命を持っているという意味で、我々の関係は時代に刻まれ、文明に基づいています」
「両国は、距離が離れていても、常に互いを非常に求め認識している2つの国です。中国訪問を西安から始めた理由は、このことが全てです。古代中国を体験する一つの手段でした」

マクロンはこの機会を利用して中国に手を差し伸べた
「私があなた方に申し上げに参りましたことは、ヨーロッパが戻るということです」と彼は述べた。
トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」というナショナリズムと中国の他国との開放性を対比させた。
また、習近平国家主席は、「多国間主義を守りたい」という願望と世界経済の柱を強調した。

このレトリックはすでに中国がどれくらいのものになったかということを劇的に示している。
与党共産党は何十年にもわたって、1800年代半ばから1900年代半ばまでのヨーロッパ列強国による植民地支配に耐えた中国にとって「恥の百年」だとして公然と非難してきた。
植民地のいじめや強制、征服、戦争というこの経験に対する憤りは、中国のナショナリズムにおいて極めて重要な政策のままである。

マクロン大統領とブリジット夫人。1月8日に西安の兵馬俑を訪れた。

 

しかし、それは中国の歴史的優位性を再評価することに基づく、より自信にあふれたナショナリズム的な物語に置き換えられ、一つは中国の歴史的優越性を再確認することにある。

中国の国内総生産(GDP)は、今後10年間で米国を上回ると予測されている。この国のリーダーシップは、野心的な新しい経済プロジェクトを見ている。

これは、より小さい属国のネットワークに影を落としているアジアの主要貿易大国としての中国の伝統的な役割を復活させるツールとして、ユーラシア大陸全域を横断する広大な「一帯一路」のインフラ構想などである。

「19世紀を支配した世界の大国の中で、中国だけが活性化した帝国である。清朝の(中華)民族である満州の統治者たちが戦争と外交によって共にまとめた広大な領土を、共産党が支配している」と  、ニューヨークタイムズの北京局長であったエドワード・ウォン氏は書いている
また、「支配権は、大きくなる可能性がある。中国は軍を使って、南シナ海からヒマラヤへ国境を越えた潜在的支配を試し、その一方で自国のナショナリズムを活性化させている。」と述べている。

中国の批評家たちは、権力を誇示する拡張主義的な拡大した権威主義国として、海洋とアフリカから中央アジアへの地政学的策動に関する自己主張だとみている。

マクロンでさえ、21世紀の新しいシルクロードの構築を取り仕切る中国に公平になるよう求めた。

「これらの道は、支配下を横断するということに変化し、新たな覇権国家のものとなることはできません」と  今週彼は語った

思慮深い知識人たちは、中国が世界をリードする超大国として米国に取って代わろうとしているとは全く考えていない。

しかし、中国の強力な成長は、トランプ氏が宣言した米国の表向きの撤退によってより明確になった。

トランプはアジアとの経済統合をめざしたオバマ時代のプロジェクトを廃止し、首尾一貫しないアジェンダと勢いで習近平と中国に接近した。

「中国の経済的足跡がすでにアジア太平洋地域全体に広がっているため、アジア各国は、アジアの経済不均衡の拡大に米国自身が撤退することがますます増えていると結論づけている」と、先月オーストラリアのケビン・ラッド首相は記している

「もちろん、米国の金融機関は、シリコンバレーと同様、画期的な革新の源泉として重要な存在です。

しかし、貿易のパターン、投資の方向性、そして域内の資本フローの性質は、戦後のアジアを支配していたものとは大きく異なる将来図を描いています」

これは必ずしも中国の戦略家の間での歓喜のもとであるというわけではない。

中国の経済は繁栄したが、米国は、広範囲にわたる軍事的プレゼンスで、太平洋の地域秩序を固めた。中国は、このグローバルな役割である米国に置き換わる準備ができておらず、また関心もない。

「ドナルド・トランプ氏の見解は、次のようにみえます。中国が『ただ乗り』できるのに、どうして我々にはできないのだろうか?しかし問題は、米国が大きすぎるということです。あなた方が『ただ乗り』したら、バス会社はつぶれます」と北京大学外交学部のジア・クィンゴ(Jia  Qingguo)学長はニューヨークのエヴァン・オスノス氏に述べた

また、「おそらく、最良の解決策は、米国がバスを運転するのを中国が支援することであろう。より良くないシナリオは、中国が準備もできていないときにバスを運転するということです。それはあまりにもコストがかかりすぎ、十分な経験もありません」とも述べている。

 

「トランプはアメリカのゴルバチョフであると思います」と清華大学の近代国際関係研究所の学長であるヤン・シュートン氏はオスノス氏に語った。

ニューヨーカーのジャーナリストは、「中国では、ミハイル・ゴルバチョフは、ソ連を崩壊させた指導者として知られている」と説明した。

しかし、問題なく完全にそうなったとしても中国という帝国が世界に向けて何を意味するのかについては、依然として懸念がある。

習近平の下で、中国の政治的自由化への期待は消え去った。

市民社会のための余白は縮小し、中国の支配者はこれまでにない最も技術的に洗練された広範囲の治安国家を作り上げようとしている。

共通の夢である習近平のバラ色の言葉と共有された運命は、より暗いエッジを装っている。

タイムズ紙は、ウォン氏は次のように書いている
「もし、中国が、軍事的、経済的に価値と文化があり、十分な考えに基づいた権力をもつ帝国に変わるなら、中国の国民と世界は、恩益を受けるだろう」

「それは最も輝かしい王朝の下でより啓蒙された。しかし、今のところ、共産党は強力な権力と支配力を持っており、これは国際舞台において、衰退しつつあるリベラルな米国の覇権から代わるものであろう。しかし、これは世界秩序の壮大なビジョンにつながることはない。その代わりに、我々の前に喪失感が現れる」

(海外ニュース翻訳情報局 MK)

執筆者 :イシャーン・タルール(Ishaan Tharoor )
ワシントンポストで外交問題についての記事を執筆。かつては、タイム誌の香港、ニューヨークを拠点とした上級編集者。
また、父親のシャシ・タルール氏は、インドの作家で、国連事務次長の職に就き、広報活動を担当。ダボス会議においては、”将来のグローバル・リーダー”の一人に指名された。国連総長の氏名投票で、潘基文に次ぐ票を獲得し最有力候補の一人となった。

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