【米国・調査結果】黒人家族へのメディア偏向報道の実態!?

一昨年の大統領選挙以降、「フェイク(偽)ニュース」という言葉をよく耳にするようになりましたが、改めてその意味を考えさせられる記事です。「フェイク」とは、必ずしも「真っ赤な嘘」というわけではなく、問題に対する光の当て方が恣意的という意味合いが多分に含まれているということかもしれません。本記事は、アマゾン創始者のジェフ・ベゾスが買収したことで知られる、ワシントンポスト紙に寄稿されたオピニオン記事の紹介です。

Post 2018/01/10  0:00

The Washington Post by  】

新たな研究により、FOXやCNNといった放送局、またニューヨークタイムズに至るまで、誤った伝え方をしていることが示される。

米国上院議員の選挙運動中に、元アラバマ州判事であったロイ・ムーア(Roy Moore)氏は「米国を再び偉大に(make America great again)」が何を意味するかという質問に答えた。ムーア氏によると、「我々は奴隷制を有していたが、それでも家族が団結したときには」米国は偉大であった。「家族は互いを気遣い合った。人は、家族の中で強かった」

黒人家庭は無秩序な状態にあり、奴隷制下の方が裕福であったという主張は新しいものではない。2011年の共和党の大統領予備選で、候補者のミシェル・バックマン(Michele Backman)とリック・サントラム(Rick Santorum)はともに、同性婚に反対する公約に署名したが、そこには奴隷制のときに生まれた子どもたちは、今日の子どもたちよりも、両親がいる家庭で母親と父親に育てられることが多かったと書かれていた。2016年の選挙遊説で当時候補者であったドナルド・トランプ(Donald Trump)は、貧困、ホームレス、犯罪がはびこるアメリカ黒人の悪夢のような世界を「何か失うものがあるだろうか(What do you have to lose?)」と言い表し、投票を求めた。

その通り、これは言語道断であるが、驚くことではない。自分の黒人家庭に対する印象が(FOXニュースに限らず)普段見ているニュースに基づいているのであれば、今日の黒人家庭は、奴隷にされていた頃よりも悪い状況にあると思うかもしれない。

女性や有色人種についての迷信やステレオタイプを強めることで、いかにニュースや意見メディアが、ジェンダーや人種に対する大衆の認識をゆがめるかについて、学者らは長年立証してきた。そして、ニュースや意見メディアは黒人家庭に対して、偽りと証明されたステレオタイプを広げるという危険な役割を担っている。


我々の組織である、「カラー・オブ・チェンジ(Color of Change)」および「ファミリー・ストリー(Family Story)」は、平均的なニュース視聴者が、前回の選挙展開の間に黒人家庭(および白人家庭)について、何を「学んだ」かを調べるために、メディアのパターンを研究しているイリノイ大学のチームに調査を委託した。その結果は、憂慮すべきものであった。

メディアは、貧困と犯罪について黒人家庭を病的なものとみなし、白人家庭を理想化する、良く言っても人種的に偏った描写や迷信を促していたことをその調査は示している。ひどいときには、メディアはこのような不正確な描写を、政治的・財政的な利得のために誇張した。このような報道は、偽りと証明された作り話を強め、警官による暴力から経済政策に至るまでの様々な行動を正当化するのに役立っており、黒人家庭のみならず、あらゆる家族を何世代にも渡って傷つけるであろう。


調査チームは、2015年1月から2016年12月までに発行または放送された、800を超える関係記事・番組を調べた。これは、ABC、CBSやMSNBCのような全国放送およびケーブルニュース放送局や、ワシントンポスト、ニューヨークタイムズやUSAトゥデイのような国の主流新聞、ならびにオンラインニュースサイトの報道を網羅している。出版・放送両方の報道において、メディアが組織的に黒人家庭について誤って伝えていることを研究者らは発見した。

調査されたメディアは、貧しい家族についての記事を報道する際に報道時間の59パーセントで黒人家庭を取り上げていた。しかし、貧困ラインより下の暮らしをしている家庭のうち、黒人は27パーセントのみである。同様に、福祉についての報道では、実際に福祉を受けている家庭のうち黒人は42パーセントであるにもかかわらず、取り上げられた家族の60パーセントが黒人であった。このパターンは多数のソースに広がっており、全国ネットの中で最もひどかったのは、FOXニュースとCNNで、全国紙とオンラインニュース組織では、ニューヨークタイムズとブライトバートであった。

さらに、ニュースメディアは習慣的に、黒人の父親たちは子どもたちの生活への関わりがより少ないという迷信を強めていた。黒人の母親と、白人の母親と白人の父親とが、それぞれ自分の子どもたちと触れ合っている様子が映った写真と動画は同率であったことを我々は研究で発見した。しかし、黒人の父親が自分の子どもたちと映ったものの頻度はそれらの半分に過ぎず、黒人の父親が欠けていることが社会格差の理由であるという社会通念を、ニュースメディアは定期的に永続させていた。たとえば、「CNNトゥナイト(CNN Tonight)」では保守的なコメンテーターであるラリー・エルダー(Larry Elder)氏は「この国で、黒人地域の基本的な問題は父親たちの不在です」と語っていた。

黒人の子どもたちは、偏ってシングルマザーの元に生まれているが、それは父親たちが関わっていないということではない。疾病対策センターが2013年に行った研究では、黒人の父親たちは、他の人種の父親たちよりもより多くの時間を子育てに費やしており、より頻繁に入浴やおむつ替えをしたり、子どもを遊びに連れていったり、宿題を手伝ったりしていることが示された。


我々の研究はまた、黒人家庭が自らの経済的、社会的な生活環境に起因しているのではなく、貧困や犯罪に対する責任も含めて、彼ら自身が個人的、文化的、そして社会的な不安定性の原因となっているという考えを、メディアが強めていることを発見した。「ジ・オライリー・ファクター(The O’Reilly Factor)」で、ビル・オライリーは「貧困の根本原因は、『(ニュースサイトの)トーキング・ポイント(Talking Points)』が何度も報道しているように、アフリカ系アメリカ人の伝統的な家族が崩壊していることにある。」とコメントした。このような主張を支える根拠はなく、むしろそれが偽りであるというたくさんの根拠がある。同時に、ニュースメディアは白人家庭を、社会的安定性の源泉たるモデル規範として掲げている。これがオライリーの声高な主張を超えて拡大し、主流ニュースのプロデューサー、編集者、そして記者が家庭や家族の生活を報道する際に選ぶ画像や映像を含め、報道に次々と流れている。

この報道は、現実での生活に帰結している。これまでの研究で、ニュースメディアが継続的に黒人と犯罪とを結びつけると、人種的なステレオタイプを視聴者の中に増大させ、大衆が懲罰的な刑事司法政策に対し、偏って賛同するようになることが示されている。 その上、貧しい者の大多数が黒人として描写されると、大衆は福祉に値しない黒人が恩恵を受けると認識してしまうため、福祉に対するより厳しい制限を支持するようになる。ニュースメディアが黒人家庭の社会的状況を非難すると、企業的および右翼的な政策の支持者が増える一方、メディアは、社会を不安定にするという自身の役割を目に見えないものにしたままである。


福祉、フードスタンプ(食料配給券)、生活保護、および勤労所得減税といった連邦政府の貧困解決策の主な受益者が白人であると正しく理解されていたときは、それらの策は非難されることはなかった。このことは特に、1930年代の世界大恐慌時において真実であった。マーティン・ギレンズ(Martin Gilens)が自身の著作「なぜアメリカ人は福祉を嫌うのか(Why Americans Hate Welfare)」で実証したように、1960年代の公民権運動および(リンドン・ジョンソン大統領の対貧困政策)「貧困との戦い」の後にこれが変化し始めた。マーティン・ルーサー・キングが公民権追求に続いて黒人とその他の人種が深く影響を受けた地方と都市両方での悲惨な貧困に目を向けたとき、記者らは彼を追い続けた。都市に住む黒人の貧困へのメディアの強迫観念が時を追うにつれ、我々の国でだれが貧しいのかという偏見になった。そのうちメディアや政治家らは、ニューディール政策の約束をうやむやにし、政策変更を正当化するために、黒人を前面に押し出すことで貧困を「他人事」にし始めた。今日、政治家が大衆の目をときに逸らし、ときには煽り、右翼や企業の利益を押し進める報道を作るために、経済ポピュリズムとして慣例化された人種差別を展開するのを、我々は目の当たりにし続けている。ニュース放送局は、政治家の検証機関として、このような迷信をときに大きく、ときには小さく、ときに例外として、またときには日常的に繰り返すことにより、彼らの最良のパートナーとなっている。

より正確で責任のあるメディア報道に向けて我々はいかに取り組むべきであろうか。このような研究での発見を公にすることは、そのひとつの方法であろう。また、FOXニュースやCNN(報告では、すべての評価でこの2つは最悪であった)といったひどいメディアに広告を出すことを差し控えるよう、企業に圧力をかけることで、ニュース放送局およびそれを監督する企業に、このような慣行を止め、自らの標準を見直すよう押し進めることができると考えられる。

我々の国が、文化的な分断を終わらせ、あらゆる家族を強くするための解決策を生み出したいと願うのであれば、メディアは、家庭環境の変遷に影響をもたらしている経済的、社会的な力を無視したまま、多くの害をもたらす嘘の作り話を流し続けるべきではない。ニュースメディアは、非常に多くの家庭の幸福を妨げている組織的な障壁と、それらを改善しうる政策について、大衆が理解する手助けをしなければならない。メディア産業が、家族をいかに報道すべきかについて考慮すべき時期はとっくに過ぎているのだ。


執筆者

ニコル・ロジャース(Nicole Rodgers):
ファミリー・ストーリー(Family Story)の創始者であり、理事長。
ファミリー・ストーリーは、多様な階層の家庭を向上させる組織である。

ラシャド・ロビンソン(Rashad Robinson):
人種間の平等を目指す組織であるカラー・オブ・チェンジ(Color of Change)の理事長。

(海外ニュース翻訳情報局 渡辺 つぐみ 監訳:浅岡 寧)

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