【アジア情勢・分析】ネパールとモルディブがインドの軌道を外れようとしている

中国は、ハーグ仲裁裁判所の判決を無視して事実上すでに南シナ海を手中に収め、おとなしい日本が何も言わないのをいいことに東シナ海にもじわじわと触手を伸ばしています。次に西方に覇権を拡げるために大々的に一帯一路政策というものを打ち出しており(公式には地域の経済発展を促すものですが)、その危険性を理解しているが故に、昨今日本とアメリカが声を合わせてインド太平洋戦略の重要性を説き始めているわけです。

ネパールもモルディブも小国に過ぎないかもしれませんが、インド太平洋戦略の重要性を念頭に置いて、今一度それらの国の位置を世界地図で確認してみてください。それら両国で最近起こった出来事について分析したこちらの記事はアジア・タイムズからのものですが、日本ではほとんど報じられないこれらの出来事が、地政学的には非常に重要な意味を含んでいる可能性があります。

post 2017/12/10   8:48  update 10:32

Asia Times by  12017/12/09 】

南アジアの政治地図が一変しようとしている。木曜日(12月7日)に行われたネパール議会の選挙の初期開票によると、同国の複数の共産主義政党によって構成された左翼同盟が他を制しており、カトマンズの次の政権を担うことになりそうだ。

左翼同盟は概念的に、おそらく中国寄りになるだろう。同時に、モルディブの大統領、アブドゥラ・ヤミーン・アブドゥル・ガユームは、4日間にわたる中国への公式訪問を開始した。

その二つは関連した動きではない。ただ、南アジア地域におけるインドの影響力の低下を示唆しているという共通点がある。そしてそれは、モディ政権の外交政策の失敗としか考えられない。簡単に言うと、モルディブとネパールは、インドの影響圏から外れる可能性がある。

大まかにいえば、現在起こっていることは、モディ政権がそれら脆弱な小国に対して行ってきた「骨太外交」の結果だ。非宗教的な国であるか、もしくは「ヒンドゥー・ナショナリズム」を受け入れるかは、ネパールが決めるべきだ。ニューデリー政府はネパールが決めた自らの道に対して罰を与えるわけにはいかない。

正直なところ、2年前、ネパールに圧力をかけるために2か月にわたる経済封鎖を行い、それが深刻な燃料・調理用ガス・薬品およびその他の必需品の不足を引き起こしたことは、率直に言って馬鹿げたことだった。インド国境に近いネパール南部に住むマデシの人々(インド系)がインドのスパイだという認識が広まってしまった。

インドはまた、2015年4月に起こったネパール地震の後の救済活動においても、それを中国との広報競争のように見せてしまうという重大な過ちを犯した。ネパール人はインドが単に中国を出し抜こうとしているように感じ、うんざりしてしまった。それ以降、インド外交はネパールに基盤を取り戻せていない。

その結果としての反インド感情は、ネパールでのインドのイメージを著しく落とし、名声を破壊し、影響力も弱めた。さらに複雑なことに、ニューデリー政府とネパールの王党派陣営(インドのヒンドゥー国家主義者に近い)がここ数か月接近していると報じられたことが、両国の民主陣営をさらに刺激する結果となった。

まとめると、次から次へと気に入られようとした(それは同時に、インド側が一方的に好意だと思っていた)インドの粗雑さとひどい日和見主義が、今日ネパールの選挙民をして誰一人インドの味方をしようとしないという事態をもたらした、ということだ。

インドのモルディブとの関係も、それに劣らず惨憺たるものだ。ニューデリー政府の外交・安保政策官庁は浅はかにも、両国関係に過剰な地政学を注入してきた。本来は、より根気強く両国の相互依存関係を強化すべきだったのに。13億人の人口を抱えるインドは、417,492人しか人口のいないモルディブの最も近い隣国だ。

インドはモルディブに特別な興味を抱いている。なのに、どうしてその島国に圧力をかけるような、アメリカとの同盟を形成しないといけないのか? また同時に、モディ首相を歓迎しようというマレ政府の誘いに対する露骨な肘鉄は、不機嫌さと尊大な傲慢さの香りがした。マレへの訪問を約束することで、モディには何も失うものはなかったはずだ。しかし結局、彼は(パキスタンの)ラホールを訪問した。

しかし、ニューデリー政府がモルディブの前大統領モハメッド・ナシード(対立していた現在のマレ政権からはひどく嫌われている)をサポートし始めた際に、両国関係はどん底に達した。2015年1月にスリランカで起こったと誰もが疑っているのと同様な、「政権交代」計画が進行中だという印象を与えた。この場合、ナシードが(インドによって)控えの間に待機させられ、選ばれる時を待たされているかのように。

相互関係においてはものの見方が重要であり、ニューデリー政府のナシードとの熱い関係はマレ政権を後退させただけだった。

インドの振る舞いがネパールとモルディブを遠ざけ、後援者としての中国に引き寄せられるように仕向けてしまったと言えるだろう。

その両国は人間的・文化的なレベルにおいてインドとの強い親和性があり、どちらの国もインドからの援助なしでは立ち行かない。それらの国にとって、中国ではインドの代わりにはなり得ないのだ。しかし、北京政府はヤミーン来訪の際にレッドカーペットを用意した。彼は、先月の共産党大会後に中国を訪問した最初の南アジア首脳となった。そこに、強力な象徴性がある。習近平国家主席は木曜日にヤミーンを人民大会堂で迎えた際に、こう話し掛けた。「中国はモルディブを、21世紀の海のシルクロード構築のための重要なパートナーとみなしている」と。

ヤミーンは「中国はモルディブにとって、親しい友好国の中でも最も信頼でき、頼り甲斐のあるパートナーだ」と返答した。北京政府がヤミーンの訪問を誇大宣伝する様を見ると、どうやらスリランカよりもモルディブのことを、インド洋におけるシルクロード戦略のより信頼のおけるパートナーだとみなしているようだ。

MKバドラクマル執筆者 : MK バドラクマー(MK Bhadrakumar)は、インドの外交官。29年以上にわたり、ウズベキスタン(1995-1998)、トルコ(1998-2001)インド大使を務めた。

(海外ニュース翻訳情報局  浅岡 寧)

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