【トランプ訪日】アジアの混乱:トランプが起こしたことではなく、引き継いだもの

アジア太平洋地域の状況について、トランプ大統領に批判的な専門家はその政策を批判しています。しかし、グラント・ニューシャム氏は、その批判者たちこそが今の混乱へと導いた張本人でもあると述べています。トランプ氏は果たして「突飛」で「予測不可能」な人物なのでしょうか?またアジア太平洋政策の今後は?アジアタイムズからオピニオンを紹介します。
Post 2017/11/11 12:23

ASIA TIMES  By    NOVEMBER 6, 2017 2

トランプ氏を批判する人々の話を聞けば、アジア太平洋地域はドナルド・トランプ氏が大統領に就任した2017年1月20日までは、牧歌的であったと思うことだろう。

米国国務省および国防省の元高官であるデビッド・シーア元大使は、最近オーストラリアで演説し、その中でトランプ政権に対する典型的な批判を行った。

シーア氏は次のように述べた。「同盟国は私たちが西太平洋で約束したことが信頼できると確信していたが、突飛な政権のせいでそれが損なわれ、米国が同盟国として長期的に信頼に足る存在であるのかという疑問を呈し始めた」 シーア氏は、「米国の権威が低下し、米国経済の重要性が否定され、西太平洋での米軍の作戦が締め付けを受け、そして同盟国が徐々に減少する」と警告し、「北京(中国政府)がアジアで中国を中心とする経済と安全保障の秩序を確立し、米国の役割は最小限に留まる」と締めくくった。

確かにそうだが、この話はタイミングがずれている。その地域でこれが起きたのは、すべてトランプ氏が就任するずっと前の政権でのことだった。そして、(文民と軍人のどちらも)米国の外交関係者の中でトランプ氏を批判する人たちの多くが、現在の状況を引き起こすのに一役買っていたのだ。

中国に対しては、「(緊張の)段階的縮小」と和解がオバマ政権時代の命令であった。中国のことを「敵対国」などと言及するなら、スーザン・ライス(元国連大使)の怒りを買うことになった。

2012年(その頃トランプ氏は美人コンテストを開催し、テレビ番組の「アプレンティス」で見習い(参加者)を雇ったりクビにしたりしていた)に、中国がスカボロー礁をフィリピンから奪ったことをオバマ政権が黙認したことで、中国が島に建造物を作る活動に「承認」を与える結果となり、南シナ海の事実上の所有権を与えることにつながった。

その後米国はフィリピンに、中国を常設仲裁裁判所(PCA)に訴えることを勧めた。裁判所がフィリピン政府に圧倒的に有利な判決を下してから、オバマ政権はフィリピンの友人をそのまま放置した―中国をなだめるためだ。

この突飛な処遇のダブルパンチを受けて、長年の同盟国は意気消沈しドゥテルテ(大統領)が生まれ、フィリピンが中国寄りに傾くことを促進することになった。

また周辺諸国もそれを感じ取った。

トランプ氏が米国の約束を損なう?それはまずない。そしてスカボローと中国に関する失敗を引き起こした米国の首謀者が、今や厚かましくも夢中で、トランプ氏の外交政策を激しく批判している。

北朝鮮についても、金政権はトランプ氏の大統領就任の日にICBMと核兵器を手渡されたわけではない。むしろ北朝鮮は、クリントン政権の時代以来ほとんど妨害を受けることなく事を進めてきた。

トランプ氏は今、クリストファー・ヒル氏から無償の助言を受けているが、この人物がブッシュ政権の時代に米国政府の北朝鮮との交渉を失敗へと導いたのであり、金一族に本当の圧力をかける取り組みを停止させた。

そして東南アジアでは、オバマの外交政策チームは2014年のクーデター後、タイの首脳部を排斥し屈辱を与えた。もっと暴力的なクーデターを行ったエジプトの軍人にはすり寄ったというのに。この突飛な行動に立腹し、タイも中国寄りに傾いた。
一方、民主的な台湾は過去の二つの米政権で、自国が米国の友好国であるのか、あるいは消えて欲しいと願われる厄介者なのか全く判然としなかった。

アジア「ピボット(中心軸)」- 突然の成功?

トランプ氏に批判的な人々は今、オバマの「アジア・ピボット(アジア回帰とも言われる、オバマが提唱した外交政策)」が、同盟国にも敵対国にも巧妙な策略だと広くみなされているにもかかわらず、大きな成功であったと主張している。

そして大統領は環太平洋パートナーシップ(TPP)から離脱したことで非難を浴びている。まるでこれがアジアでの米国の低迷を引き起こしたかのように。この主張は、オバマがTPPを可決することに無関心であったことと、ヒラリー・クリントンが反対していたことを見過ごしており、ビル・クリントンとその他の者が、その何年も前に中国のWTO入りを画策したことによって受けた実害のことも言うまでもなく無視している。

アジアにおけるアメリカの優位性と影響を中国に譲り渡したことは、ニクソン時代にまで遡って、米国の外交政策に携わる人々が党派を超えて成し遂げてきたことだ。

しかし、このことは全て前もって決められたものではなかった。それに代わる行動方針もあったが、提唱者は余りにも頻繁に意見を却下され、変人、戦争屋、また「ニュアンス」を欠いていると言ってけなされた。

40年に渡る実証的な証拠を経た結果は、期待外れのものだ。それでもこのように成功できなかったことの責任を負うべき人々は、常に「失敗しても前向き」だ。そして政府の閑職、学界、シンクタンク、ウォールストリートの間を転々とする。

トランプ大統領は別の者が作ったひどい状況を引き継がされた。そしてそれに対処するのに10カ月しか経っていない。

結論はまだ出ていないが、ついに北朝鮮に圧力をかけている。中国に対しても。

トランプ氏が中国と「仲良くやっていく」つもりなのかは何とも言えない。それにトランプ氏がヘンリー・キッシンジャーやゴールドマン・サックスの出身者と会うときはいつも不安がよぎる。しかし、トランプ氏は少なくとも航行の自由作戦(FONOPS)を実行し、貿易の調査を行い、スタッフが中国の略奪的経済(不当に低い価格設定)に言及するのを許している。中国が隣国をいじめて、領域を取るのは悪いことだとさえ言うようになっている。

トランプ氏はタイを同盟国のように扱い、フィリピンとの関係も改善させた。後に怖気づいてしまったが、台湾の蔡大統領とも話をした。
軍備を増強する必要性も理解している。この点に関してはもっとやるべきこともあるものの、適切な予算ではある。

トランプは突飛なのだろうか?国際関係の学位を持った素人心理学者はそう言っている。

しかし、トランプ以前の外交政策担当者の実績を見れば、堂々と発表され、(決して誰も責任を負うことのないように)「省庁間のグループ」によって決定された、愛情さえ込めて作った政策であってもやはり愚かなものだと言える。

トランプ氏は予測できないか?そうかもしれない。しかし、いつも引き下がってしまう騙されやすい人物とみられるよりはまだ良い。フィリピンはスカボローのことで割に合わない思いをしてから、オバマのことを予測できないとさえ考えていたかもしれない。

トランプを批判する人々は、大部分はまっとうな人たちだが、さほど出来は良くなかった。少し内省と後悔をしたほうが妥当かもしれない。

その代わりに彼らは今、「自分たちの言うことを聞いてさえいれば」と言っている。残念ながらトランプ氏の前任者は聞いてしまった。トランプ氏がそうしないことを願いたい。
(海外ニュース翻訳情報局  竹林浩)

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