【日中関係・論文】中国vs.日本 アジアのもう一つの大きなゲーム

日本と中国の関係を、歴史・経済・政治など幅広い様々な観点から考察した論文です。かなりの長文ですが、第三者の目から見たアジアにおける日本と中国の立ち位置を知ることは今後の両国関係を考えるにあたっての参考になります。この論文は、アジアの安全保障の専門家である、スタンフォード大学フーバー研究所のマイケル・オースリン氏によるもので、彼がアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所の常任研究員として書いたものです。
Post by 海外ニュース翻訳情報局    207/11/05  14:48 update 2017/11/07 6:42

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The National Interest  By  Michael Auslin 

米国の外交政策が発展した後、中国と日本は、間違いなく競合するだろう。

「親魏倭王(しんぎわおう)卑弥呼に制詔(みことのり)する。汝、それ種人(種族の人々)を綏憮(なつけること)し、つとめて(天子に)孝順をなせ」

西暦238年 魏皇帝曹叡より卑弥呼への手紙から

魏志倭人伝 西暦297年

「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す」

西暦607年 推古天皇より隋皇帝煬帝への手紙

日本書紀 西暦720年

二つの強大国が影響力を争っているという幻影は、専門家や評論家にとって便利な物語を作り出す。つまり、アメリカと中国の二か国によって、アジアの将来、もしくはおそらく世界全体の将来が大なり小なり形成されるということだ。経済から政治、そして安全保障の問題にいたるまで、アメリカと中国の政策は常に相反し、ワシントンと北京の不安定な関係は、アジア内外にも影響を及ぼしている。

しかし、この筋書きは、アジアの中での、もう一つの優劣を決める争いを見過ごしている。それは、おそらく、米中間の争いと同じくらい影響力があるかもしれないのに、だ。何世紀にもわたって、日本と中国は、最近のワシントンと北京の関係よりもずっとお互い頼り合い、競い合い、そして影響し合う関係から抜け出せないでいる。それぞれが相手より優位に立つ、または少なくとも最も影響力を及ぼそうとしてきた結果、アジア全体、もしくは日中の近隣諸国との関係は、二国間のライバル関係によって様々な時点で形作られてきた。

米中の争いが、特に安全保障の領域において、アジアに最も直接の影響を与えているということは、今日誰も疑わない。アメリカの、長年にわたる日本を含む同盟関係や、航行の自由作戦のような治安維持は、北京の政策に対抗するための主要な安全保障戦略である。アジアで大国が衝突すると想像したとき、敵対する二つの国といえば、誰もが自然にアメリカと中国を思い浮かべるだろう。しかし、日本と中国のライバル関係を単なる枝葉の問題とみなすことは間違っている。アメリカの外交政策が進化したずっと後 ―米国がアジアから手を引く、嫌々ながらでも中国の覇権を認める、またはアジアにおける軍事的政治的存在を高める― これらのいずれの状況が起こったとしても、そのアジアの二国は、優劣を争い続けることは疑いない。更に、アジア諸国自身も、日中関係は、(日米関係とは別の)アジアにおける大きな勝敗をかけるゲームであり、様々な意味において、永遠に続く争いだということを理解している。

日本で最初の歴史的文献が書かれるより何世紀も前、言うまでもなく日本で最初の中央集権国家成立の何世紀も以前、当時の最も有力な豪族の使者たちが、漢王朝の宮廷とその王位継承者たちの前に姿を現した。その倭の国の代表者たちは、西暦57年、後漢に最初に到着したという記録がある。ただ、最初の中国人と日本人社会との接点は、紀元前2世紀後半にまでさかのぼるという説もある。驚くことではないが、これら最古の日中関係は、日本が長期にわたり交流を持ってきた朝鮮半島への中国の介入という文脈で語られている。また、魏の宮廷が倭に恭順を求めたことは、当時は少しも驚くことではなかった。おそらく、多少意外なことがあるとすれば、まだ統一されたばかりの島国が、7世紀、アジアの超大国に対し、平等な関係どころか、優位の関係を求めたということだ。

広い視点からの日中関係の輪郭は、影響力の争い、相手に対し優位な立場に立ちたいという主張、そしてアジアの地政学的バランスでの絡み合い等、早い段階から明確になっていた。二千年という道のりにもかかわらず、この関係の基本は、ほぼ変化していない。しかし、今日新しい軸がその方程式に加えられた。前の世紀では、どの時代においても、常に二国のうち一国のみが強く、影響力もあり、国際的に存在感を示していた。しかし、今日、日中は両国ともに強く、協力関係のある世界の大国であり、相手の強みも自国の弱点も熟知している。

ほとんどのアメリカ人、そしてアジアの観察者たちですら、米中関係が、予想し得る限り、世界全体でなくともアジアの未来を決定すると考えている。しかし、日中のライバル関係は、極めて長く続いており、過小評価すべきではない重要な関係だ。アメリカ合衆国が、イラクとアフガニスタンでの戦争の後、広がり過ぎた世界全体への関与を続けることに苦悩しており、またトランプ大統領が推進するアメリカ外交政策の全面的な見直しが具体化するにつれて、外交・安全保障政策についての内省と見直しの期間に入った。その結果、東京と北京の永遠の争いは、今までよりかなり緊張状態に入っている。これは、ワシントンと北京が引き起こす力と同じくらい、今後数十年のアジアをそれなりに形作る原動力だ。

アジアの将来が日中両国によって決められるというのは、二十年にわたる高度経済成長により世界最大の経済大国(少なくとも購買力平価での計算によると)に躍り出た中国と、同時に起こった二十五年間もの日本の明らかな経済停滞を考えると、非現実的な主張に聞こえるかもしれない。また、日本が二桁または一桁台後半の経済成長を謳歌し、中国が大躍進運動と文化大革命による世代交代の失敗からかろうじて立ち上がろうとしていた1980年代であっても、(日中両国の立場が逆であることを除けば)そのような主張はいかにも非現実的に聞こえただろう。わずか数十年前には、日本こそが、唯一アメリカのみが対抗できるほどの、世界の金融超大国になるだろうと予想されていたのだ。

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