【米国】米国の対中国貿易・移民政策で裏目に出た3つ事

By Mariko Kabashima

米国で起きたことは、10年後の日本で起きると昔はよく言われていましたが、今は、10年後とはいわず同時に起きることもあるのではないでしょうか。
我が国日本は、ますます米国との関係も深くなっていますが、日本の国益を考えて我が国独自の目線で米国を見るということも大切ではないか?と思います。

ハイパーグローバリゼーションの今、米国の現状を知るうえで、重要だと思われる論文をご紹介します。


《引用記事 フォーブス 2021/12/08 》

小さな子どもがチェスを始めると、よくある間違いを1つ犯す。相手が手を出すことを忘れてしまうからだ。このアナロジーは、貿易、半導体、移民の3分野における米国の対中政策を表している。これら3つの分野すべてにおいて、支持者が 「タフ」 と表現した米国の政策は裏目に出た。

イノベーションと留学生

米国経済のイノベーション政策をFBIや国家安全保障会議のメンバーに任せるのは良いアイデアでしょうか?良いアイデアかどうかは別にして、中国からの学生、教授、研究者に関してはそうなっている。

2020年5月29日、ドナルド・トランプ氏は 「中華人民共和国 (PRC) からの一定の学生および研究者が非移民として入国することの禁止」 に関する大統領令10043 (PP 10043) で公布した。この宣言により、国務省は中国の大学院生や研究者のための多くのビザを拒否したり取り消したりした。

中心となるのは、禁止リストに載っている特定の大学で学んだ人には、たとえその人に関する否定的な情報が存在しなくても、ビザは与えられない。この公布は、悪意の証拠を示さない多くの人々を一掃する。米国の若者が、MITに通っていて、MITの教授たちが国防総省の資金や米国政府の研究助成金を受けているという理由で、外国で勉強するためのビザを拒否された場面を思い浮かべてほしい。

少なくとも数百人から数千人の中国の大学院生や研究者が、この宣言に基づいてビザを拒否された。国務省は多くの要請にもかかわらず情報を公開していないため、正確な数字は入手できない。ビザ発給が拒否されると信じている個人は申請さえしないので、公式の数字はこの宣言の影響を過小評価するだろう。

この公布が施行された直後の2020年6月に行われたインタビューで、元国務省ビザ局法律諮問意見セクションのチーフであり、全米政策財団のアドバイザーであるジェフリー・ゴースキー氏は、現在の影響を予測していた。ゴースキー氏は、「機密技術の移転に関する懸念に基づいて学生候補を審査するプログラムは、すでに長年にわたって実施されています」と述べている。
「この布告は、たとえ省庁間の許可プロセスを通過したとしても、過去または軽微な中国の団体との関係に基づいて米国から排除するものです。米国は、貴重な人材プールと、これらの学生が米国の大学や米国にもたらす経済的、科学的な貢献を失うことになります」と述べている。

この政策は米国にとっても損失がでる。National Foundation for American Policyアメリカ政策財団 の分析によると、米国の大学から1,000人の博士号取得者がいなくなるごとに、大学で生み出される特許の期待値が10年間で2,100億ドル、失われる授業料が10年間で10億ドル近くになると推定される。これには、生産性の高い科学者やエンジニアが米国経済で活躍できなくなることや、大学以外で生み出される特許やイノベーションの損失など、その他の経済的コストは含まれていない。米国の大学でコンピュータサイエンスや電気工学を学ぶ大学院生の約75%は、主に中国やインドからの留学生である。

貿易と同様に、バイデン政権はトランプ政権が始めた中国の大学院生に対する問題のある政策を続けている。現在の国家安全保障会議スタッフに関する中国の専門家は、中国からの留学生に対する制限について好意的に書いている。トランプ大統領の顧問であるスティーブン・ミラー氏のように、留学生への制限を支持する移民政策担当者は、この宣言が多くの中国人学生を締め出すだろうと理解していた。中国についての専門知識を持つ人々が、ビザ政策がどのように実施されるのかを十分に理解しており、これらの政策が米国のイノベーションに与える大きなマイナスの影響を理解しているとは思えない。

最近発表された2つの報告書は、FBIが米国の大学で中国出身の教授を調査した結果、刑事訴追が殆ど成功しなかったことを疑問視している。

プリンストン大学のRory Truex助教授は、2021年の論文で、「中国人による学術的/経済的なスパイ活動が米国の大学で広く行われているという証拠は不十分である」と書いている。2019年と2020年に20カ月間調査を続けた結果、司法省(DOJ)の取り組みである『チャイナ・イニシアティブ』が正式に告発した米国の大学や研究機関はわずか10件で、スパイ行為や窃盗、知的財産の移転の証拠があったのは3件だけだった」。
米国の大学院レベル以上の大学でSTEM分野に従事している中国人が約10万7千人いることを考えると、現在の司法省の告発は、この集団における犯罪率が1万分の1以下の0.0000934であることを意味する」。
(正式な起訴は有罪判決ではなく、司法省は数件の訴訟を取り下げている。)

MIT Technology Review誌が最近行った調査によると、司法省の中国イニシアティブの調査は、主に情報開示や書類違反の発見に発展しているという。”同イニシアチブの焦点は、経済スパイやハッキング事件から、書類上の外国との関係を十分に開示していないなどの「研究の完全性」の問題へとますます移行している。

MIT Technology Reviewによる最近の調査によると、司法省のChina Initiativeの調査は、主に開示と書類業務違反の発見に向けられているという。
「イニシアティブの焦点は、経済スパイやハッキングの事例から、書類上で外国との関係を完全に開示しないなどの 「研究の完全性」 の問題へと移行しつつある」

MIT Technology Review誌はこう結論づけている。
「我々の報告と分析によると、起訴によって作られた恐怖の風潮は、すでに一部の有能な科学者を米国から追い出し、他国の科学者の入国や滞在を困難にしており、中国や世界中から科学技術分野の新しい才能を引き寄せるアメリカの能力を危険にさらしている。」
トランプ政権下で司法省の中国イニシアチブの創設に携わった元米国弁護士は、MITテクノロジーレビューの批評に同意した。

中国政府が2008年に開始した「千人計画」は、海外にいる中国の科学者が中国に戻ることを奨励し、さらに一般的には、中国生まれの優秀な科学者が米国ではなく中国で働くことを奨励している。現在の米国の政策は裏目に出ており、才能ある人材を中国に呼び戻すという中国共産党の長期的な目標を支持しているように思える。


半導体

米国が制裁を拡大し、半導体や関連技術の中国企業への販売規制を強化した際、ある米国の技術担当幹部は、「米国の研究開発費を制限するよりも、米国企業に半導体を販売させたほうが理にかなっている。特に、中国が半導体産業を本格的に発展させるためには、制限があったほうがはるかに大きなインセンティブになるから」と私に考えを語った。

その予想は現実のものとなった。
「中国に投資しているKrane Funds Advisors(クレイン・ファンズ・アドバイザー)の最新レポートによると、
「米国と中国は、国内の半導体産業を強化するために多額の投資を行っているが、中国の産業は米国の産業に比べてまだ未発達であり、投資家にとってはより大きなメリットになる可能性がある。」
「さらに、中国の半導体産業は、政府の強力な投資、有利な政策、低コスト、そして5G開発によるデジタル化の流れや世界を凌駕する自動車技術により内需が急増する可能性があることから、魅力的な長期投資先になると考えている」と述べている。(引用)

アルバータ大学のリチャード・ビーソン教授は、National Foundation for American Policyのための最近のレポートの中で、1980年代に日本の産業政策が失敗した理由の1つは、政府の決定がたいてい政治的でバラバラだからだと結論づけている。
このことは、米国政府の政策を見てもわかる。米国議会では、他国の政策に対応して、米国内で半導体を生産するための資金を投じる法案が政権の支持を得て提出されている。しかし、2021年12月2日、米連邦取引委員会は、「米国のチップサプライヤーであるNvidia Corp.による英国のチップデザインプロバイダーであるArm Ltd.の400億ドルの買収を阻止するために」訴訟を起こした。
半導体産業協会(SIA)の報告書は、この問題を説明している。

米国の制裁は、米国半導体企業の技術革新の能力を損なう。「米国半導体業界は通常、収益の3分の1以上を中国での販売から得ている」と、技術問題を追跡調査しているVerdictは指摘する。ボストン・コンサルティング・グループによると、中国の大規模で成長する市場がもたらす規模は、米国産業の”R&D(研究開発)強度に支えられた好循環的なイノベーションサイクル”を可能にする重要な要素となっている」。

SIAのレポートでは次のように述べている。
「半導体はアメリカで5番目に大きな輸出品であり、グローバルに販売する能力は、技術的リーダーシップを維持するために高水準の投資をサポートするのに必要な収益と規模をもたらす」
「近年の半導体技術に対する輸出管理措置は、非センシティブな商用半導体や関連技術まで対象とする過剰な拡大解釈となっている。さらに、これらの規制は一方的な方法で課されている。同盟国との協調行動がない場合、これらの措置は意図せずして米国の半導体のリーダーシップを弱め、我々の軍事的・情報的優位性を損なう危険性がある」

報告書は、輸出管理政策が、対象を多角的に絞り、米国の産業界や技術界のリーダーシップを考慮しない限り、「米国の競争力と産業基盤を損ない、国家安全保障目標の達成に役立たない可能性が高い」と指摘している。


貿易

トランプ政権は、中国からの輸入品に関税を課すことで、中国の政策を変えようとした。しかし、中国の政策は関税をかけても変わらなかった。予想通り、中国は報復し、米国の農家やその他の輸出業者に損害を与えた。トランプ政権は、政策による政治的ダメージを軽減するために、Commodity Credit Corporationを通じた税金を実質的に「裏金」として利用し、前例のない280億ドルもの支払いを農家に分配した。

トランプ政権の関税は、米国経済にもダメージを与えた。ニューヨーク連邦準備銀行のエコノミストであるメアリー・アミティ氏とコロンビア大学のエコノミストであるサン・フーン・コング氏、デビッド・ワインスタイン氏の調査によると、中国からの輸入品に対する関税の結果、米国の株式市場に上場している企業は推定で1.7兆ドルの市場価値を失ったという。

National Taxpayers UnionのBryan Riley氏が近日発表する論文によると、中国が世界貿易機関に加盟しても、米国の製造業の強さを阻害することはなく、米国内での正味の雇用損失も生じなかったと結論づけており、トランプ政権の貿易戦争の誤った前提を示している。

米国議会予算局は、トランプ大統領の関税により、米国の平均的な世帯で年間1,200ドル以上の負担が発生すると試算している。バイデン政権は、この関税を維持している。皮肉なことに、バイデン政権の貿易チームが中国からの輸入品に対する関税を維持する理由の一つとして挙げているのは、中国政府が、トランプ大統領が自分の政治的利益のために結んだ管理貿易協定で約束した農産品の購入で、中国政府がドル価値を満たしていなかったことだ。
トランプ氏は、中国からの輸入品に関税をかけることが裏目に出て、米国の農家に損害を与えた後に、この取引を望んだのである。

中国との貿易戦争を始めることは、裏目に出た「タフ」で「タカ派」な貿易政策だけではない。貿易・外交政策のアナリストによると、中国よりも米国の経済的・戦略的利益を促進するために設計されたアジア太平洋地域の貿易協定から米国を外すことは、過去50年間の米国大統領による最悪の決断のひとつとして語り継がれるだろうとしている。中国は包括的進歩的な環太平洋パートナーシップへの参加を申請しており、ドナルド・トランプ氏の決定は2017年よりも現在の方がさらに悪く見えるということです。
いくつかの重要な分野で、米国の対中政策は裏目に出ている。支持者は近年の米国の対中政策を「タフ」と表現しているが、その政策はスマートだったのだろうか。


執筆者 スチュアート・アンダーソン
バージニア州アーリントンに本拠を置く、貿易、移民、および関連問題に焦点を当てた超党派の公共政策研究機関であるNational Foundation for American Policyのエグゼクティブ・ディレクター。
2001年8月から2003年1月まで、移民帰化局で政策・計画担当のエグゼクティブ・アソシエイト・コミッショナーおよびコミッショナー顧問を務めた。
それ以前の4年半は、スペンサー・エイブラハム上院議員の下で上院移民小委員会に所属、その後サム・ブラウンバック上院議員の下で小委員会のスタッフ・ディレクターを務めました。ウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズなどに記事を掲載。
『Immigration』ノンフィクションの著者。

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子 翻訳 文)

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