【韓国】米韓関係:トランプは去ったが、米韓同盟には緊張が残る

1月20日に米国ではバイデン政権が誕生し、その後韓国はバイデン政権をどうみているのでしょうか。
こちらは、米国のヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)の記事からご紹介します。

*VOAは、米国の非軍事的な国際放送をすべて監督する政府機関である米国グローバルメディア庁(USAGM)の一部で米国議会によって資金提供されています。

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子)


《引用記事 ヴォイス・オブ・アメリカ 2021/01/26

【ソウル】 バイデン米大統領が先週就任した後、韓国の文在寅大統領ほど安堵のため息をついた世界の指導者はいないだろう。

文大統領は、バイデン大統領就任の祝辞で、「アメリカが戻ってきました」と声明をだした。声明ではドナルド・トランプ前大統領については直接的に言及しなかったが、その意図は明らかだった。


ジョー・バイデン大統領:ご 就任おめでとうございます。 アメリカが戻ってきたました。アメリカの新たな始まりは、民主主義をさらに偉大なものにするでしょう。韓国国民とともに、私は「アメリカ合衆国」に向けたあなたの旅路を支持します。


米国と韓国の同盟関係は、トランプ氏の下で始まった緊張の時代を経験した。トランプ氏は、3万人近くの米軍を駐留させる費用を増やすよう韓国政府に圧力をかけるために、失礼な言葉や侮辱、脅迫を多用した。

最近、韓国政府への 「強要」 をやめるよう求めたバイデン大統領の下で、軍事費分担摩擦は沈静化するものとみられる。しかし、一部のアナリストは、北朝鮮への対応をめぐり、同盟国間で新たな大規模な意見の不一致がすぐに表面化するかもしれないと警告している。

北朝鮮との関係を改善することは、戦時中の難民として北から逃げてきた両親を持つ元人権活動家である左派の文氏のレガシーを定義する問題である。

しかし、5年間の大統領任期が来年5月で終了する文氏には、南北和平の実現に向けた時間が限られている。彼は会談を更新するための最後のプッシュを誓ったが、進展はバイデンの支援がなければ、進展は困難だろう。バイデン政権は、42万人以上のアメリカ人の命を奪い、アメリカ経済を壊滅させたコロナウイルスのパンデミックに飲み込まれている。


異なるアプローチ

バイデンが気を取られているだけの問題ではない。バイデン大統領と文大統領は、北朝鮮との交戦の是非や方法について重大な意見の相違を抱えているようだ。

副大統領時代、バイデン氏はオバマ前大統領の「戦略的忍耐」政策を監督していたが、これは平壌が交渉に応じる準備ができるまで、経済的・軍事的圧力を徐々にかけていくというものだった。

バイデン氏は大統領選挙中、北朝鮮の金正恩氏を「チンピラ」「暴君」「独裁者」と繰り返し呼んだ。バイデン氏は北朝鮮の非核化が進展しない限り、金正恩氏とは会わないと示唆している。

バイデン政権はまだ北朝鮮に対する戦略を決定してないが、国務長官に就任する予定のアントニー・ブリンケン氏は、米国は外交と圧力の両方を使って北朝鮮を交渉に復帰させることを検討すると述べている。


ソウルでの心配事

北朝鮮に対する米国の敵対的な姿勢が高まれば、文大統領と韓国の同盟国は動揺するだろう。

文氏は先週の記者会見で、バイデン大統領の出発点は金正恩とトランプ氏による2018年のシンガポール合意であるべきで、その合意では双方が「朝鮮半島の非核化を目指して努力する」ことに合意したと述べた。

先月の論説では、韓国の文正仁大統領特別顧問はバイデン氏に悲観的な見方を示し、バイデン氏が北への軍事的圧力と制裁を強める可能性を指摘した。

ソウル延世大学の名誉教授でもある文正仁氏は、「バイデン時代の始まりが、我々が待ち望んでいた平和な世界秩序を取り戻す保証はない」と書いている。


推進する

こうした懸念があるからといって、韓国が北朝鮮との関係改善を試みるのを止めることはできないかもしれない。

韓国政府当局者らはここ数週間、北朝鮮との軍事的緊張緩和の一環として、3月に予定されている米韓合同軍事演習の中止や縮小を望む意向を示唆している。

韓国統一部は先週、東京五輪を利用して北朝鮮との関係を再開したいとの意向を確認した。

ソウル峨山政策研究院のゴ・ミョンヒョン研究委員は、「文政権は北朝鮮政策についてこれまで以上に楽観的であり、ここにある種のチャンスを感じ取っている。」と話した。

ゴ氏によれば、可能性のある計画は、文氏が北朝鮮との交戦を進めることで、バイデン氏に異議を唱えるように仕向けることだという。

「例えば、北朝鮮が我々との会談に合意したと言ってワシントンに問題を押し付けることで、我々を止めるために何をするのか…文政権は自分たちが主導権を握ることができると感じているのではないでしょうか」とゴ氏は述べた。


しかし、それはうまくいくのだろうか。

このような会談の推進は、韓国が冬季オリンピックで南北スポーツ協力を一連の南北会談に成功させ、最終的にはトランプ・金会談につながった2018年の状況を反映している。

しかし、今回はそのような動きがうまくいくかどうか疑問に思う理由がたくさんある。最も明白なのは、コロナウイルスのせいでオリンピックが開催されない可能性があるということだ。もしオリンピックが開催されたとしても、開催国である日本は会談への参加に同意しないかもしれない。

「今の情勢は全く違うので、彼の計画がまたうまくいったらショックだ。」と語るのは、新アメリカ安全保障センターの韓国専門家、キム・ドヨン氏だ。

「トランプは芝居好きで、いい写真を撮るのが好きなので、トランプをだまして金総書記と会談させるのは簡単でした」 と彼女は付け加える。

「バイデン氏は、国家安全保障についてあまりにも賢く、経験豊富で、真剣にとりくみます」


北朝鮮はどのように対応するのだろうか。

いずれにしても、北朝鮮は対話再開に同意しないかもしれない。平壌はここ数カ月、米国や韓国との会談をボイコットしてきた。とりわけ米国政府が核開発計画に対する制裁を緩和していないことなどに憤慨しているからだ。

北朝鮮は今月の主要な政治会議で、韓国との関係を改善する方法を模索していると述べたが、ソウルに対し、ワシントンとの軍事演習を中止し、新たな軍事力の獲得を中止するよう求めた。

北朝鮮はこの数カ月間、新型の巨大大陸間弾道ミサイルや、潜水艦から発射するよう設計された可能性のある弾道ミサイルなど、いくつかの新型兵器も披露した。

一部のアナリストは、北朝鮮が米国の政権発足を前後して新たな軍事力を誇示する傾向があると指摘し、北朝鮮がこれらの新兵器の一つを近いうちに実験するか、あるいは新たな核実験を行う可能性があると懸念を表明している。


同じページにとどまる

また、このような北朝鮮の核実験が、バイデン大統領と文大統領の間の溝を狭めかねないという別の懸念も出ている。

「韓国と米国が同じ道を歩むことを望む。北朝鮮は韓国に圧力をかけ続けるだろうし、 文政権の立場からすれば、あと1年しか残っていない」 と 戦略国際問題研究所 (CSIS) の韓国専門家、スー・ミ・テリー氏は最近のオンラインフォーラムでこのように述べた。

元CIAのアナリストのテリー氏は「文政権は、北朝鮮をなだめることはできないということを認識する必要がある。」と話す。「米朝間の突破口が開かれない限り、南北関係に突破口はない。」。

ソウルの一部ではさらに楽観的で、バイデン氏と文氏が十分な共通点を見つけることを期待している。

「バイデン政権は北朝鮮を無視することはできない」 と韓国の国会議員で文大統領の民主党のメンバーである尹建永 (ユン・ゴンヨン) 氏は言う。「制裁だけで北朝鮮の核問題を解決することは不可能である」

※ 無断転載厳禁

この記事が気に入ったらシェアをお願いします。